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[わたしは大きく深呼吸する。こみ上げてくる嗚咽をそれで無理やり押し殺して、ナターリエに向き合う。]
仕方ないですね。
[言ってしまったものは仕方ない。とりあえずこっちをどうにかしよう。]
[これで…、わたしがこの後あの銀の刃にかかって死んでも、彼にかかる疑いが少しでも減ればいいんだけれど。]
体から離せないなら、仕方ないですね…。
[わたしはもう一度言って、彼女の腕を、その先に形作られた刃を持つ。]
…。
[躊躇い。自分は人間だけど、能力を信じきれていない、という風に映るよう。]
…なんで、この騒ぎの最初に、この力で全員調べなかったんですか?
そうすれば、きっともっと少ない犠牲で…
[時間稼ぎ、悪あがき。この間に、何か手を考えなきゃ。]
あの子を護れるなら、他なんて知らない。
今度こそ護って、生かしてやるんだ──。
[頑なな意思]
[蝕まれた精神は癒されることなく]
[妄執した事柄のみを実行しようと言葉を繰り返す]
[拒絶の言葉]
[絶望の色]
[ウェンデルがベアトリーチェに問うた言葉に]
[一縷の願いを乗せて真紅がベアトリーチェへと向かう]
[けれど、返ってきた言葉は──]
[小さな叩音以外は響かせず、そっと室内に入る。
ナターリエの持つ刃。特異性を感じさせるそれに、彼女もまた力を持つものだったのかと悟る。
ゆっくりと進み、ゼルギウスから手を離したゲルダの傍に立った]
………。
[ゼルギウスの声。過去という名の鎖は、彼にもまた。
それを否定する青年。朱花を抱いた彼は毅然と。
そして。肩を震わせる少女]
[膝を突くゼルギウスをじっと見つめる。
言葉は掛けない。今掛けられる言葉は何も無い。
一連の出来事と過去を重ね合わせていたのは、自分も同じ。
刃に手を伸ばす少女に視線を転じる。
これまでとは違う違和感を感じた。その原因は知らず。
ただ、何かが起きそうだと、右手で冷たい金属に触れる。
柄にではなく、その鞘ごと握るように]
もし私が狼なら、狼の牙を斥ける者など、真っ先に消えて欲しいだろうな。
ゼルギウスも言っていたな、そう。
なにか考えがあって、身を隠しているのではと。
私がそれだ。
あとは…あの毛玉。
あれがなければ、結局は私も自信の身を証明できず、誰かに陥れ、殺されていただろう。
[じっと、ベアトリーチェを見つめながら。]
[発する言葉は抱く熱とは違い冷徹。
しかしそれが人狼か否かを確かめるものではなく、八つ当たりめいていたと気付いたものはいたか]
――…?
[少女の返答に、意外そうに瞬く眼。
手から離れ、崩れ落ちるゼルギウスと、*交互に見やった*]
でもさっきみたいに、人狼以外には効かない、というところを見せてれば…。
…いえ、あなたが自由に斬ったり斬らなかったりできるんじゃないか、って疑われただけでしょうね…。
…今は、そうじゃない、ということが証明できますか?
あなたは、イヴァンさんの友達で、彼の死の原因となった私のことが嫌い。
検査にかこつけて、わたしを殺したいだけかも…。
悪いですけど、信用できないです。
[言いながら、ナターリエの手の甲、そして肘に手を添える。]
[返ってきた言葉]
[それはゼルギウスの今までの行動指針を否定するもの]
ち、がう……ウェインツェル、には、なって、くれない…。
[真紅に淀んだ鈍い光を宿し]
[ぶつぶつと小声で呟き続ける]
(どちらも俺の手の中に収まってくれない)
(俺の護りたいものを否定した)
(だったら)
(もう、イラナイ──)
[蝕まれた精神は戻らない]
[ふつふつと沸き上がる衝動]
[未だ動く気配は見せないが、それは静かにゼルギウスを飲み込んで*行った*]
[視界の端でゼルギウスさんが崩れ落ち、うわごとのように何か呟いている。]
[悲しい。彼を傷つけてしまった。]
[ううん、来るべきときが来ただけなのかも。結局のところ、わたしは。]
[わたしはそこで彼について考えるのをやめて、最後の賭けに備える。]
…そうか。なら今からもう一度、誰かで証明してやろう。
[そして肘に触れてきたベアトリーチェに、優しい微笑みを浮かべて。]
…ところでベアトリーチェ。
私を信じないと否定するなら、毛玉の事を否定すべきだったな。
何故あれが人狼の毛だと思う?
ひょっとしたら、この騒動が始まる前、私が用意した偽物かもしれないのに。
試してみるさ。
お前の身を持ってな。
[彼女の覚悟と刃の煌めき。
果たしてどちらか早かったか―――**]
[遅れて入ってきたエーリッヒに、少しの間翠玉を向ける]
ナターリエ。自分が守護者だって。
あれは、人狼だけを切れるって。
[抑揚に乏しい声で、これまで目の前で語られていた内容を告げた。
表情は常の通り。さしたる動揺は無い]
薬師様。
[ぽつ、と、膝をついたゼルギウスの名をただ呼ぶ]
…。
[言うべき言葉があるとして。
それはおそらく自分のものでないと思った。
ふっと首を横に振り、向けた翠玉をベアトリーチェとナターリエの方向へ。
傍からは、平行線のようにも見えるが、果たして。
エプロンのポケットに手を入れて、来るだろう一瞬を待つ]
[動く。そう思った瞬間に、先手を取った。]
[ナターリエの肘間接に外向きの、手首に内向きの力をかける。]
[梃子のように腕を曲げさせ、手から現れている鎌を、ナターリエ自身の胸に突き立てる。]
[どうせ彼女には効かない。けれど。]
[鎌の下、周囲からの死角で、手首に添えていた手は手刀の形に開き、爪を立てている。]
[この爪は、鎌に関係なく彼女の胸に刺さる。すぐに引き抜けば、傷口もそんなに違わない。]
[傍目には、ナターリエ自身が自分の鎌に貫かれたように見える筈だ。]
[人狼以外にも鎌は刺さる、そういうことにできれば。]
[わたしはそのとき、その鎌が元々何でも斬れるものとは知らなかった。]
[一方は単に重ねているのみだった。
ならばもう一方は利用しているものと考えていた。
告発された少女は人狼であれど、彼は人間かもしれないと、言葉を交わすうちに見えてきたが故に。
しかし、先の反応は。]
[ヨハナがベアトリーチェを庇ったという話を思い出す。
あれは、人間であるが故だろうか。
人狼は他者を庇うのだろうか。]
[二つの考えが巡り、疑問が首を擡げる。
ゼルギウスの変化には気づかぬまま、彼に目を落とした。
*事が起こるより、少し前のこと*]
[全て上手くいって、鎌が誰にでも効く、ナターリエはわたしを騙そうとした、という風に落ち着いたとしても。]
[この手で、人前で彼女を殺めたわたしは、疑われると思う。]
[もしかしたら、明日を見ることはできないかも。]
[それでも、せめてこの女だけは連れて行かなくては。]
ナターリエが守護者。
人狼だけを、か。
[ゲルダの言葉に確信を得て、翠玉を見つめ返し、小さく頷く。
不可思議の力ならばそんなこともあるのだろうか。
信じきることは出来なかったけれど、今は混乱を増やすだけだと口にすることはせず]
[そして、その瞬間は*来た*]
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