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[離れ行く二つの足音]
…やっぱり、カーラ、なにも、できない…。
[やらなければいけないことを自分の手で為せない。
悔しさが込み上げる]
ローテュ…カーラ、どうすれば、いい、のかな。
[近くで羽ばたくロートスにぽつりと言葉を向けた。
星の細工を両手で握り、胸の辺りへと置く。
足はその場に止まったまま]
[駆けた先、見えたもの。
獣と化した、ハインリヒの腕。
それが、狙うもの]
……やめっ……。
[無意識、身体がそちらへ動く。
二人の間に飛び込もうとするように。
動かしたのは、自分の意思か、それとも。
いずれにしろ、右手はポーチの中に潜ませていたものを、掴んで]
[流れ落ちる血を見て、ロミルダの目にじわりと涙が滲む。
足の力が抜けて、へたりと座り込んで]
ぅ、…っく、
[右手で腕を押さえながら、それでも再び上がる獣の腕を避けようと、それ以上に緩慢な動きで後退る]
[カーラの「助けて」という言葉には返事をしなかったのは、意識的にできなかったからで。同じように台所へと目指す男二人とともに歩んでるつもりはないが、ただ台所へ駆け込んで]
― 台所 ―
[傷つき、血を流すロミルダの姿と、ふらふらながらも半ば獣化した腕のハインリヒが目に入り]
ロミちゃん。逃げろ!!
[ハインリヒの腕が振りあがる。それは距離以前に、殺すことはできても、護ることに長けてない...はただ声を発し、短刀を逆手に持つ…その横をかけ、二人の間に割り込もうとする人影がいた。]
[赤子を抱えたままでは、当然走る速度とて遅れる。
それでも投げ捨ても、降ろしもせずに、カルメンの横を抜け、台所へ。
途中、ユリアンにも抜かされて。
ハインリヒとロミの対峙を見るのは、その背中越し]
――…おいっ、ユーリっ!?
[その間に割り込もうとするヒトの名を叫んだ]
何事ですかっ?!
[喧騒の源は台所。
人の入り乱れるその場所に加わることは容易ではなかったけれど。
かろうじて、血を流す少女の姿は見て取れた]
[腕を振り下ろす直前、霞む視界を遮るように飛び込む影]
[僅かに聞こえた声に苛立ちをぶつける]
どけ!お前には用はない!
[払いのけようと腕を振って場を薙いで。
背後からの声に反射的に振り返る]
っ…邪魔を、する、な…っ!!
…なんだよ…あの動き
[横を過ぎていったユリアンをみて思わず足が止まってしまった。
それは行為そのものにも、そして動きについてもいえた。
あそこだけ、何か別の意思か。力が働いてるように見えて]
[払いのける腕は、後ろに身体をそらせて避ける。
が、避けきれず、爪が身体を掠め、紅が零れた]
……っつうっ……。
[痛みが走る。
傷は、浅いとはいえない。
けれど]
そっちがなくたって、こんなん、ほっとけねぇよ!
[苛立ちをこめた叫びの後、ポーチから引っ張り出した短刀を抜き放ち。
突きの一撃を繰り出す。
銀色の刃が、微か、光を跳ね返した]
[「捜す者」である子供に]
[腕を]
[だけど][もう]
[それが何処にいるのかわからずに]
[自分が何をしているのかさえ]
[もうわからずに]
っと、そんな場合じゃないか…ゲルダさんか。みりゃわかんだろ
[護れない己は、自分のために殺すだけ。と念を入れ
腕を振り回すハインリヒをみて、短刀を構える]
[もう一つ、また一つ、横を駆け抜けて行く足音と気配。
誰なのかまでは分からない。
先に駆けた人数と、今駆けて行った人数を数える。
今残る全ての者が、渦中へ向かったのを知った]
[自分以外の全ての者が]
……だいじょぶ、かな。
[ぽつりと漏らした声に、ロートスが小さく、くるると鳴いた]
ロミルダちゃん!
[少女の名を呼ぶ。
流れる血に。
困ったな。彼女が死んだら困るのに。
――してしまいそうだ。
そんなことを、何処か遠く、思った]
……っ!
[胸元に感じたもの]
[一瞬、それが何かわからずに]
[次いでやってくるのは熱も似た痛み]
……ぐ…っ…
[毒に霞んで見えぬ目を見開いて]
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