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……お前には、一体。
何回そう言われてるんだろうな、俺。
[ため息混じりに呟いて。見つめる青を、蒼で見返す]
……そっか。
でも、正直言ってどこまでできるか、俺にもわからん。
そも、方法がわかってねーし。
失敗するかも知れんし。
[むしろ、その可能性のが高いけど、と。
苦笑が滲む]
……だから、さ。
離れとけってば。
[今は、血を求める衝動はないけれど。
いつ、それが蘇るかは、わからないと。
言葉には、しないけれど]
――――ドゥンケル。
[闇と、呟くと同時に。]
[その姿は銀色の狼へと変わってゆき。]
[イレーネににぃと、歪んだ笑みをうかべ飛び掛った。]
さあね。
数え切れないくらいじゃない。
[へなりと、場違いに暢気な笑みが浮かぶ。
けれど、それは、一瞬で、消して]
……ねえ、アーベル。
リューディアが、死んだよ。
[確かめるように、言葉を紡いだ]
50年前のがいったいどういう人だったのかは俺は知りませんよ。
俺とはまた違った方法で、わかっていて言わなかったんでしょうねぇ。
…さて、俺は人狼をどうしたいんでしょう?
[シスターの疑問に、付け入るようにわらった]
別にかばっているわけでも、ありませんよ。
俺は、人狼も、人間も、どうしたいとも思っていません。
ただね、組織の壊滅の時に、俺はまたもう一つ、自分の身で実験をしているんですよ。
それが、止めることを許してはくれませんでね。
それに俺も疑われていたんですよ?
たとえ満月の時はやめろといったとして、ギュンターさんや村の人たちが、やめたとお思いですか?
[木立の向こう、ようやく人影を見つけて、男はあがってきた息を整える]
…たく、年はとりたくねえぜ。
[ダガーを握りしめ、気配を殺してゆっくりと近付く。人狼に、それが通用するかどうかは知らないが]
[話を聞いていた。そうなのか。と
そして部屋の気配が変わると同時に、扉に手を掛け、あけると同時に剣をブリジット…いや、銀色の狼に投げつける]
[ヴァイオリンの弓だけを手に。
白いブラウスだけの姿で。朱花が透ける]
兄様は、姉様を食べたわ。
父様は、その前に殺されたわ。
似ているようで、少し違う。
――もしかしたら。
私もあなたのようになるところだったのかもしれないわ。
[じっと見つめる]
Dunkel…暗黒。
そう、それを選んでしまうの。
[クレメンスの言葉が、耳にではなく頭に直接響くような気がした]
[予想していたことと、そうではなかったこと]
…やはり、伝承の事はご存知だったのですね。
[彼が、知らない、といっていたのはやはり嘘で]
地位を手に入れるため…その為に、人を利用して…。
では、あなたには判るのですね?人狼が誰か。
最初から判っていたのですね?
……ブリジットが、そうであると。
……数えられてたら、こぇぇよ。
[はあ、とため息混じりに呟いて。
直後、何かを感じたように、視線が空へと向かう]
………………。
[紡がれるのは、声なきコエ。
蒼は微か、不安を宿すか]
……って……ああ。
知ってる。
[しばしの間を置き、ふるりと首を振り。
返したのは、短い言葉]
違う道を。
一緒に探して欲しかった。
[肩から全身へと駆け抜ける痛み。
それを堪えて見つめた背後]
けれど。
[ブリジットの背後で開かれた扉。
廊下の明かりが一気に差し込んでくる。
そして、強い銀の光が]
ええ。
この村に辿り着いた時から、ここに人狼がいることはわかっていましたね。
血が騒ぎましたから
[シスターに笑いかけた]
ま、先人達が何を考えていたか、俺は「知っている」だけで、本当のところそうだったかは知りませんけどね。
地位なんてたいしたものじゃありませんからねぇ。
俺の場合は、研究に携わっていたのは、そうですねぇ…家族だからでしょうね。
それに俺自身、戻れないところにいましたし。
[沈黙。
沈黙のように、思えた時間。
それは、何を意味するのか――]
そっか。
……「そう」、なんだ。
[アーベルにいつ、知る間があったというのか。
なぜ、彼がここにいるというのか。
逆らうのは、何に対してか。
戻れないのは、どうして。
すべて、頭では、理解していたけれど]
[手に篭めていた力が、緩む]
[対峙する二人の若者。その間に、今は、殺気は感じられない。男はけれど、今度は二人から目を離さなかった。最後まで離さずにいるつもりだった]
[……どこかで、狼が啼いたと思ったのは、気のせいか?]
[クレメンスがこちらに向ける声は、どこか嗤っているようで]
では、あなたは何のために…
ご自分の実験の結果を知る為ですか?
[そこまで言って]
[続いた言葉に目を瞠る]
……ギュンターさんや村の人が…?
まさか、これを…わざとこの状況を作ったと?
[何のために?]
ふたりになら、殺されてもいいと思ってた。
ふたりじゃなければ、殺されても手がかりを残そうと思ってた。
[最初の決意は、そうだった。
自分にとって、最善の方法を――]
なのに。
……嫌だ、なあ。
[いつの間にか、辺りは薄闇に覆われ始めていた。
木の葉に隠された空は、今、何色をしているのだろう。
血のような朱い色か。
それとも、全てを覆う深い青か。
陽が落ちれば、その後に訪れる刻は]
[剣を投げつけ、その一瞬の後に部屋に入り
イレーネを庇うように、ブリジット…いや、ドゥンケルの前に立ちふさがるように動こうとする]
ったく…こんなんと対峙することになんてな。あの爺んのせいだ。もし生き返ったとしても俺が殺してやる
[飛び掛り、床に押し倒し。イレーネのその喉に喰らいつこうとして。]
えらぶ?えらぶってなにを?
[銀狼からは、幼い声がきょとんとするような。][そんな不釣合いな気配。]
[一拍の隙。][それをめがけて剣が放たれたのか。]
[背後から感じた殺気を瞬時避け朱花から離れ。][剣は床へと突き刺さる。]
[ぎろりと、銀狼が男をねめつけ。]
…やはり貴様から喰うべきだったか。
[次に発されるのは低い雑音のような。][酷く殺気だった、獣の意識。]
ギュンターさんや村の人がそうだとは思いませんよ。
ほら、記憶を失った俺を置いてくださいましたしねぇ。
…ああ、もしかして嵌められましたか
[ふと思い立ったその事実に、声が遅れた]
場を作り上げたのは、教会のお偉いさん方かもしれませんねぇ…
良い趣味をしてやがりますよ。
[吐き捨てるように呟いた]
…まぁ俺の実験は、たいしたものではありませんよ。
ただ知識をね、吸い上げることによって実を結ぶんです。だからずっと平穏な村の中で生きていてもらうつもりだったんですけどねぇ…
……ああ。
そういうコト。
だから。
[緩んだ手から、そっと。自身の手を引く]
……殺したくなかった……って言っても。
今更だな。
だから、それはいわねぇ。
[最初は、二人だけは、死なせまい、と。
そう思い、緋色の世界を共有するモノのコトバにも逆らって、抗って。
……でも、結局、衝動に負けたのは真実だから]
知っていたのなら何故!
[言わなかったのか]
[そう言いかけて、止める]
[彼も「システム」と言うものに縛られているのかも知れないから]
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