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[泣きじゃくっているロランの声がいたい。
慰めの言葉も浮かばず、幼なじみの死と嘆きを受け止めている。
キリルがミハイルに抱き上げられるのを見て、ロランを助け起こそうと近寄りかけた。
その時、ふいに強い風を感じて]
きゃあっ!
[黒い風の正体はわからなかった。
近づくまえに、風におされてへたりこんだ。
無意識に閉じていた瞳を開いたときには、ロランもレイスもいなくなっていた]
[お伽噺はまだ終わらない。
人狼はまだ、いる。
そう知らしめるかのような、現象。
男はミハイルとカチューシャを順に見詰める。
その顔は困惑というよりは険しさの滲むもの]
――…終わらない。
キリルだけじゃ、なかったんだ。
[いなくなった二人のどちらか。
それはまだ確かめてはいない憶測に過ぎぬもの]
ミハイル。
キリルをイヴァンのもとに連れて行くのは
夜が明けてからにした方が、良いと思う。
[今は危険かもしれない、と
男はミハイルに言葉を続ける]
――…、ミハイル、カチューシャ。
[二人を交互に見遣り名を呼ぶ]
今夜は僕の家に泊まっていかないか?
幸い、部屋は余っているから。
[カチューシャはオリガの部屋に
ミハイルは主寝室に、と考えながら提案する]
――ロランの自宅――
[開け放たれた作業場の窓。
酷く生臭い臭いは広場までも漂っていた。
大きな作業机には、仰向けに寝かされたレイスの死体が有る。
首は鋭い刃物で掻き切られ、その上から齧られた痕。
胸元引き裂かれ、心の臓まで喰い荒らされていた。
そこから床まで垂れる血は床、沢山の獣の足跡が沢山ついており、
動物に対しての知識があれば狼のものだとも判るだろう。
きちんと作業場を見渡せば、隅のひとつの机の上に
鹿の革を加工して作られたちいさな水筒とベルトが
置いてあるのが判るだろう。
水筒には可愛らしくリボンが着けられており、
ベルトはガッチリとしていてなかなか千切れそうにもないもの。
作業したての、まだ堅い革で出来たそれらには、
塩辛い透明な液体が付着していた。
だがその場に、ロランの姿は、無く。]
[消えたロランとレイスを探そうとは言わない。
消えたどちらかの身が危険だということは感じていたが
探すあてさえ思い当たらぬ今からでは遅いだろうとも思う。
頷くカチューシャが立ち上がれば
遅れて手を差し出した]
足は平気?
[レイスに怪我の手当てをしてもらうはずだった彼女。
あれから様々なことが起こり其処まで気がまわらなかった。
案じるように視線を足元へと注ぐ]
[差し出されたユーリーの手に、小さな手を重ねた。
立ち上がるのを助けてもらって僅かに息をつく。
怪我のことを聞かれて、ようやく傷を意識した]
――うん、ちょっと痛いぐらい、だから。
[なんだかんだありすぎて、一度家に帰ったときに軽く傷口を洗っただけだった。
今はかさぶたができているけれど、なにかあればまた直に開きそうではあるけれど、平気だと頷いた。
ロランとレイスがいたほうへともう一度だけ視線を向ける]
[重なるのは華奢に見える娘の手。
カチューシャの応えを聞けば頷きを向けた。
誘うようにもう一度ミハイルへと視線を向ける。
家に明かりを灯し部屋へと案内すると
蜂蜜をいれて少し甘めにしたホットミルクを差し入れて
風呂に湯を用意して、湯浴みが出来る旨を伝えておく。
そうして、戸締りを確認し男は自室へと戻っていった**]
[ミハイルの返事をきいて、ユーリーの家に向かう。
案内されたのは、都会にでていったオリガの部屋。
差し入れのホットミルクに、強張っていた表情を笑みに変えて。
伝えられた言葉にちいさくありがとう、と答えた。
そしてホットミルクを飲んで落ち着き、湯を借りて身奇麗にした後]
[オリガの部屋のオリガのベッドに体を横たえる。
この部屋で、幼馴染の女子三人があつまったことだってあった。
今は、一人きり。
赤い色を流して横たわるキリルの姿が、瞼の裏に浮かんで。
腕で目元を押さえる]
……
[ロランは、無事だろうか。
不安は消えず。
そのまま、眠る事もできずに夜を明かすこととなった**]
―― 自室 ――
[気付けば夜が明けていた。
窓から射し込む陽の光が瞼の裏を染めている。
目許を手で覆い、くぐもる声を漏らした。
暫く経ち、明るさに慣れてくればゆっくりと手を下ろし目を開ける]
……ン。
[二年前ならば妹が起こしにきたであろう時間。
朝早くから元気な妹に対して兄の方は朝に弱い。
その妹の部屋にはカチューシャが泊まっている。
意識がはっきりとすれば身体を起こし手早く身支度を整える]
[机の上に置いたままになっているグラス二つと水晶玉。
男は水晶を手に取りそれを覗いた]
もう触れることはないと思ってたのに
[皮肉なことだと思う。
自分の為そうとしている事を思えば苦さが込み上げた。
確かめようとしたのは、ロラン。
覚悟していた結果に深い息が漏れる]
だから、あの時、……
[キリルを止める手立ての話をしたとき
ロランは如何やって止めるのかと問い返した。
彼もまたそうであったから、男に問うたのだと知る]
[あの時は説得すべき相手は其処に居ないと思っていたから
男はロランにキリルを説得する為の働きかけをしようとしていた]
――…あの時、
僕が如何やって説得するのか、知りたかったのか ?
如何、ロランを止めるのか――…
[問うものの答える者は此処に無い。
困ったような、どこか自嘲的な笑みが漏れた]
―― リビング ――
[とれたての卵と牛乳。
それから貯蔵庫に保存していたチーズと豆、たまねぎにじゃがいも。
男は厨房でレンズ豆のスープと、パンケーキを人数分用意した。
作りなれたものではあるがカチューシャには及ばぬ素朴な味のもの。
パンケーキの横には切り分けたチーズが添えられてある。
起こすのは悪いと思ったのか声は掛けなかった。
自分の分を平らげると、
空になった食器だけ片して家を出る**]
[陽光が村を薄く照らし始める頃、
ロランの姿はキリルとレイスの家の裏にあった。
傍らには黒銀の毛並みを持つ狼が控え、
イヴァンの畑に置いたままの車椅子の代わり。
見下ろしているのは、白い花。
可憐に花開いた、その夢のような香り纏う花]
…本当に、いい香りだね。
[呟くと、ひとつの花を土から掘り返す。
あの時、あの山で、そうしたように。
根ごと革で出来た袋に入れると、鞄に入れた。
そして狼の背にしがみつくと、獣は力強く地を蹴り。
いくらかの獣の毛と土踏む足跡を残して、
黒い大きな影は森の中、川の方へと消えた**]
― ユーリーの家 ―
[夜が白々と明けるまで、幼馴染との思い出を思い返してる。
日の光が窓から差し込んできた頃、家の中で動く物音がする。
けれど、起きて行く事はしなかった。
一睡も出来なかった顔は酷い事になっている]
――……キリル……
[目を閉じて居れば、兄やイヴァン、キリルの姿が脳裏に浮かび。
嘆くロランと、妹をなくしたレイスの姿も浮かんだ。
思考はまとまる事もなくちぢに乱れて。
ミハイルが泊まっていたのなら、その物音も聞こえなくなった頃、ようやく起き上がった]
――会いに、行かなくちゃ。
[レイスか、ロランか。
どちらかが息断えた姿で見つけられるだろうことは解っている。
それでも、どちらにも生きた姿で会えれば良いと願っていた]
[ユーリーが用意した食事は、食欲がなかったから、レンズ豆のスープだけいただいた。
日常を思い起こさせる素朴な味に、ほんのすこし目元を和ませ。
食卓の上を綺麗に片付けてから家を出た]
[キリルの家に泊まったときに使う予定だったものは、ユーリーの家での着替えになった。
黒ではないけれど、深い茶色のワンピースを選んだのは、兄の死を悼むためであったのに、今ではイヴァンやキリル、イライダを悼むためのものだ。
イライダの死は、昨日、ユーリーの家に落ち着いてから、ユーリーからか、またはミハイルから聞いていた]
― ロランの家 ―
[先に家を出たユーリーやミハイルの姿はあっただろうか。
レイスの死を彼らが先に発見していたらきっと中に入るのは止められるだろう。
けれど、制止を振り切って飛び込んだ。
――その、凄惨な光景に、足が止まった]
…… れ、いす さん……?
[酷い遺体をみたのはイヴァンが殺されるのを目撃したときぐらい。
人狼に襲われた後がどうなるのか、初めて目にして。
そのあまりの酷さに顔から血の気が引いて、その場に座り込んだ]
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