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[深み…それは、月の下で踊る狂気は持ち得ないもの]
[感情の深さ]
[ブリジットが奪われたもの]
[沢山沢山奪われたもの]
[そして]
[集会場で沢山沢山貰ったもの]
[初めてブリジットを見たとき]
[怯えて、心を閉ざしていた小さな少女]
[今、その少女は自分の手を握っていて]
[それはとても、とても大きな事で]
[だから]
[この手を離してはいけないのだ、と]
…エルザ!!
[ようやく声の届く距離まで追いつき、叫ぶ。]
エルザ!そいつから離れろ!!
[ずきり。
胸の奥の痛み。
抱きとめたその、細い身体。
たどたどしく歌う、あどけない笑顔。
まるで、姉妹のような、ふたり。]
[手を握る]
[ブリジットの思いに応えるように]
私はずっとあなたを守るわ。
大切な…私のブリジット……
[遠く、遠く]
[誰かが呼んでいるような気がしたけれど]
…大丈夫
[手を、強く握り締めて]
[風は頬を刺すように痛みを与えるけれど。
痛みを受けるのはユリアンであって]
[それでは無い]
[心の痛みを受けるのも]
[震える銃口を目に映し。
懐から赤い木を取り出す]
[継ぎ目の上下を握り、捻り、引き抜いて]
[闇の中でも、白銀の刃は僅かに光を帯びていた]
[叫び声、遠く、背中から]
[振り返る、鮮やかに、笑って]
…ハインリヒなの?
どうして?
何故この子を……?
この子は…ブリジットは何もしていないわ!
[ブリジットを庇うように、抱いて]
[叫ぶ]
…ハインリヒ…… …ユリアン…
[横髪がブリジットの顔を覆い、振り返れば]
[風は逆向きに]
[ブリジット達からハインリヒ達へと吹きつけた]
[冷たい風]
[拒絶するように]
[そして]
[何故?と問いかける]
………
[何故?]
[追う。
何のため?
止める?
…いや、殺すため?]
…離れろエルザっ!! 喰われてぇのか!?
……その子は…
[告げようとした、声が掠れる。]
[何故、ブリジット、を]
[その答えを知っているような気はしたけれど]
ブリジットは何もしていない!
だって、そうでしょう?
ブリジットはずっと私と一緒に居たのよ?
この子は何もしていないわ!
[たとえ、ブリジットがそうであっても]
[守ろうと]
…離れろ。
[迷いを押し殺すようにして、
エルザに抱かれたブリジットの顎へと銃口を突きつける。]
…この子の母親がどうなったのか、聞かなかったのか?エルザ。
………どうして…
[人間を食べた事はない]
[仄かに黄色味がかる白い眸の色]
[さえざえと空に輝く月の色]
[けれども]
[今そこに在るのは]
[狂った色などではなく]
[夜]
[幼子を抱く手]
…ハインリヒ………
ママのように、殺そうとするの…?
…それは、これから先…ブリジットが…人を襲うと?
本気で?
これから先、そうなるかも知れない…
そんな理由で…ブリジット、を?
そんなことにはさせない!
私がさせないから…この子は…
[声が、震える]
[白い、小さな手が触れる。
ソーダのグラスを受け取ったあのときのように。
迷いに震えた銃は、
あっけなく、雪原へと転がった。]
[ハインリヒの声は真剣で]
[銃口、ブリジットに向けて]
…聞いてるわ。ブリジットの母親は、人狼に襲われたらしい、と。
だけど、だからと言ってブリジットが殺したという証拠は無いはずだわ。
そうでしょう?
ママは…
あのまま……だ…と………殺されてた…
あああ、愛して…くれ……ように……毎日、ま、毎日…言う事聞いた…何でも…した…でも、…でもねぇ……ずっとずっと…愛するの…双子の……ばっかり……痛い…痛い、痛い…痛いよ……
助けて……嫌だよ…やぁ…
………それに…死んだの……わたしの……所為だって…………アハハ、アハハ、アハハハハ…わたしの…所為だってぇ……
何も………してなかった……してない…ああ…あああ…
ブリジット?
どうしたの、ブリジット!
[意味の分からない言葉を呟くブリジットに声を掛け続けて]
[ハインリヒが銃を拾った事には気づかずに]
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