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―脱衣所―
お風呂に入ってたのね。
温かくて気持ち良いわよね。ついわたしも入ると、入りすぎちゃって。
[他愛も無い話を、投げて。]
うん、わたしもお風呂よ。
ちょっと、寒くて。
……こんな状況じゃ、仕方ないかもしれないけれど。
わたしは、何もしないわ?
[服のボタンを外しながら。]
[ローズマリーの口からこぼれた他愛も無い話に、ヘンリエッタは拍子抜けしたように頬の力を抜く。]
こんなに簡単に、贅沢にお風呂に入れることって今迄無かったから……珍しくて。
[長居してしまったのだと、思わず素直に答える。ああ、なんだか普通の会話だ、と頭の隅で思いながら。
彼女のような綺麗な人が、そんな他愛の無い話もするのが意外に思えた。]
私、あなたを疑っているように見えた?
[”何もしないわ”の言葉にはっとして顔をあげる。]
[心のなかを見透かされたようで狼狽える。
彼女を疑ったのは、今も疑っているのは事実だ。
それなのに狼狽えるのは、そのことに後ろめたさを感じるからだろうか。]
……狼の可能性は、ここにいる誰にでもあるって聞いたわ。
狼が自分から何かするよなんて言うわけないもの。
―脱衣所―
わたしも、そうよ。あんまり贅沢なお風呂、入ってないわ。ここは広くて、来るときはいつものんびりしちゃうの。
[それから、緊張が緩んだ声で、少しほっとする]
ん、まあ緊張しているようには見えたけれど。でも、仕方のないことだわ。
わたしは、ローズマリーというのよ。ローズって呼んでほしいわ。
ローズ……。
[もたらされた名を確かめるように口で転がす。
見る者を引き付ける花の名前。確かにその名は彼女に相応しい。]
そう言えば、あなたの名前初めて聞いたわ。
私はヘンリエッタよ。
[少しの逡巡の後、好きに呼んで、と付け足したのは、そう言わないと不公平な気がしたから。]
―二階・客間(自室)―
[浅い眠りはいつしか深遠にと落ちていたようで、ゆらりと傾いで目を覚ます。
流石に不自然な姿勢が堪えたか顔を顰めて]
……ローズ?
[ベッドを見るもそこに既に姿は無くて。
昨夜のあの話が蘇り、唇を噛んで]
俺は明日にでも居なくなるかも知れない…
そうしたら君は……
[アーヴァインを亡くして嘆いていた彼女を思い出す。
その悲しげな表情を。
あんな思いはさせたくはなかった]
ん、ええと……それじゃあエッタ、でいいのかしら?
[わたしは少し悩んで、そう言って。]
そうね、わたし、あんまり皆と話せていなかったかもしれないわ。
名前を知らなくても無理はないと思う。
一緒の館にいるのに、ね。
[苦笑して、わたしはそういう]
[ロビーの肖像画の前でしばし佇んだ後、広間へと。
がらんとした部屋には、人の気配もなく。
転がった酒瓶と、取り分けられた菓子類の残り。]
――客室――
[少し早足で少女は割り当てられた部屋へと向かう。
胸には、罪悪感が広がる。
それは約束を破ったというものと――信頼を裏切ってしまうような行動に出た自分への戒めがそうさせるのだろうか――]
[かちゃり――]
[鍵のかかっていない部屋のドアを開けて――]
[パタン――]
[静かにドアを閉めれば視界に入る…ルーサーの姿]
あの…神父様…約束破って…ごめんなさい!
[開口一番。少女は謝罪の言葉を唇に*乗せた*]
[ローズマリーの言葉にこくりと頷き。]
前いたところでは皆そう呼んでた。
こんな長い名前、私のいたとこじゃ似合わないから。
[続けられたローズの言葉に心持ちうつむく。]
話を聞きたいって、じゃないと、誰が狼かわからないからって、神父さんが言ってた。
だから、私は貴方とも話したい。
[自分が信じたいのか疑いたいのか、どうするべきなのかまだ答えは出ていない。
けれど、相手を知ることでしか答えは出ないのだ。]
私に、狼を見分ける力があればよかったけど、私にはそんな力無いから。
話して考えるしか無いの。
[それぞれ、思い思いに部屋で過ごしているのか…、それとも恐ろしくて閉じこもっているのかも知れず。
軽くため息をつけば、ソファーへ。]
……へ?
[振り返ると、そこにはウェンディが。]
良かった。無事で……。
部屋にいなかったから、さらわれたのかと……。
[ウェンディに近づき、きつく抱きしめる。]
他の人ならいざ知らず、ウェンディなら気付いていたでしょう?
狼は、夜に行動する、と。
[半ば涙声で。]
[目の前の綺麗な人は館の主を殺した狼かも知れない。
自分が疑いを口にしたことで、もしかしたら殺されるかも知れない。
そう気づくと、少しだけ膝が震えた。
それを寒さの所為にして、目の間の女性を見つめた。
でも、自分はこうするしか無いのだ。
疑いを口にして、相手の話を聞くことでしか信じることが出来ない。]
前、いたところは、どんなところだったの?
[なんとなくそう尋ねて]
そうね、えぇ。私もあなたと話したいわ。
見分ける力……
わたしが持ってる、って言ったら?
[微笑んで、尋ねて。]
さ、風邪引いちゃうわよ? 髪、濡れたままは駄目。
[暫し、そのまま思考の海へ。
しかし答えなど出なくて。
一人で居たい 居たくない 逡巡して。
あぁ、そうだ、誰か一人……でも誰を
その答えも出せぬまま。
一人では居たくない、と広間へと向かって]
─二階・客室─
[開かない窓越しに、空を見上げる。瞳はどこか虚ろで]
……はあ。
だぁめだなぁ……。
[こぼれるのはため息と、自嘲の呟き]
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