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[だがその為に出来る手段の事を考えると―――
緩く首を振る。
やりたくなかった。
でもやらなければいけなかった。
その為の一歩が欲しくて。
真っ直ぐにエーリッヒの目を見て尋ねた。]
…エーリ。聞きたいことがある。
お前へは、人狼は、本当に存在すると思うか?
[菫色の瞳の奥には、微かな焦りのようなものが揺らいでいたが、逸らす事はなかった。]
[静かな廊下に流れる水の音にまじり、
かすかに聞こえるゼルギウスの呟きに]
ばかは余計だ…
[呟いて返してから]
あいにくと俺はゼルギウスをほうっておけないほどにおせっかいだ。
そして、俺はゼルギウスのことは一緒に戦場でる傭兵たちなんかとは段違いに、
気心のしれた、
信頼のおける仲間だと思っている。
[冷たい水につけられた手はかじかみ、顔をしかめる。
それはすでにゼルギウスに話してるのとなんらかわらない話し方になっており、
それでも手を洗い続けたままで話している]
異質なものは危ない、
それを俺はよく知っている。
俺はゼルギウスが…心配だ。
…本当に…。
[お節介な奴め]
[後半の言葉は口から紡がれず、押し殺すような形になった]
[信頼のおける仲間だと、そう言ってくれるのが嬉しかった]
[大きく息を吐き、また吸い込んで]
…悪ぃ、心配かけて。
……怖いんだ、人狼の存在を信じるのが。
認めてしまったら、何かが崩れそうな気がして。
お伽噺が事実になるのが、何故か怖いんだ……。
[呟きながら、タオルで隠れた目の部分に左手を当てる]
[それは眩暈を抑えるかのような仕草]
[座っているのに、上体がゆらりと揺れる]
ありがとう。
うん、出来ることはしておきたかった。
それは変わらない。
[言い聞かせるような言葉。互いに自分を納得させるよに]
…思ってる。
[躊躇いは一瞬。菫色を翠が正面から受け止める。
目の前の相手を信じていいのか。そう問う声は聞かない振りをして]
信じたくないことを否定しても、それは消えないことを、俺は知っているから。
逃げていたら最後は、後悔するようなことしか残らない。
[ゼルギウスの答えに]
俺も正直なところ、怖いさ。
大切な何もかもがくずれていってしまうかもしれないのがな。
御伽噺はどうあれ、今こうして俺達は容疑者としてあつめられて……、
殺気だった中にいる、そして殺された人がでている、これは事実だ。
いることを肯定する必要はないとは思うが、こういう状況に異質な存在は疑われ…、最悪な場合も考えられる。
俺の言いたいこと、わかるだろう?
[ゼルギウスに手を貸して立ち上がらせようとして]
風邪引くぞ。
部屋までおくっていく。
今日はもうゆっくり休め。
……根拠、まで聞いていいか?
言いたくない内容なら、聞かないが。
[聞きたかった一歩、はもらったが。
肯定の答えに更に問いを投げかける。]
[諭すようなマテウスの言葉]
[先程とはうって変わり、すんなりと身に沁み込んでくる]
ああ……。
[理解は出来ても、返せたのはその一言だった]
[マテウスの手が自分の腕を掴む]
[引き上げられるようにして立ち上がり]
[被っていたタオルを首へとかけ直した]
ん……。
……何か、初めてお前を年上だと実感した。
[部屋へとの言葉に頷いた後、突いて出て来たのは軽口だった]
[少しだけ口元に笑みが浮かぶ]
人を殺した人を。
人狼を殺したという人を。
俺が。殺したから。
[顔を俯け、翠を右手で覆い隠す。
低く低く、そう答えて]
……ごめん。
俺、部屋に戻る。
[早口に告げると、顔をあわせず二階へと駆けて*行った*]
[突いて出た軽口には]
そうかい、それならばもっと敬意ももってくれるとありがたいけどな。
[軽口を返して、
ゼルギウスを部屋につれていく途中]
しっかりと体拭いて着替えてから寝るんだぞ、
そこまでは俺もさすがに面倒みきれんからな。
[部屋の前につくと]
じゃあ、おやすみ。
ウェンデルがきたらしっかり礼をいうんだぞ、
それからゲルダに明日謝っておくんだぞ。
[最後までおせっかいな言葉を残してゼルギウスが部屋に入るのを見送った]
[ゼルギウスを送り終えて廊下を歩きながら顔をしかめる]
嫌な夜……?
いや…どうなんだろうな…わからない。
[かじかむ手をさすりながら自室へと*戻っていった*]
それはヤダ。
[即答する辺り、調子が少し戻って来たようだ]
[移動途中の注意には頷きを返して]
分かってるって。
ホント、お節介だよな。
お節介と言うか、口煩い。
ん、お休み。
[そう言って笑いを漏らしてから部屋の中へと入って行った]
…!
[驚いた表情を、常の顔に隠す事は出来なかった。]
エーリ
[後を追い、手を取ったがすぐに離れ、エーリッヒは二階へとあがっていく。
追おうとしたが、足は進まなかった。
呼び止めたところで、何を言えば良いのか。
かける言葉が見つからなかったからだ。]
エーリ…。
[人を殺したと。
あのエーリッヒが。
俄かには信じられなかったが。
それが嘘でない事は、友人の態度が物語っていた。]
─二階自室─
[言われた通りに濡れた髪をタオルで拭き]
[身体も拭いてから着替えて一息つく]
[マテウスのお陰で落ち着いては来たが、不安であることには変わりなくて]
[少しぼんやりとしていると、扉をノックする音が響いた]
はいはい。
……あ。
[扉を開けた先に居たのは料理を持ったウェンデル]
[お互い顔を合わせると少し気拙い雰囲気が漂った]
ええと…。
飯、持って来てくれてありがと。
それと、さっきはごめん。
[料理を持って来てくれた礼と、取り乱して反する意識を向けたことに謝罪する]
[それから逡巡の後、低く声を顰めて]
…痣の話は、本当に?
[背に投げかけられた言葉の確認を取ろうと訊ねた]
[簡単な説明でもされれば、今のゼルギウスならば受け入れる姿勢も見せるだろうか]
[相手が懐かしさを思い起こさせる青年であることも]
[おそらくは*起因している*]
…。
[緩く首を振る。
その事については、また後で折を見て本人に聞くしかなかった。
むしろ聞かない方が良いのかも知れないが。
気がつくとゼルギウスとマテウスの気配は消えており。
おそらくマテウスがゼルギウスを連れて行ったのかと思いながら。
一人廊下の壁に背を預け、黙ったまま聞いていた情報を整理した。
このなかに人狼がいる。いないかもしれないが、いる可能性が高い。
死体にあった獣の傷は、間違いなくこの目で見た。あれが獣の仕業の可能性もなくはない、が。
それに、ここに居る何人もが、人狼がいると断定するような言い方をする。
エーリッヒと同じように、何らかの形で人狼と関わった者がいるということで。つまりは人狼は存在するという事で。]
人狼…。
[いるのなら。
選ばなければならない。]
いや、だな。選ぶなんて。
[ぽつりと呟くと―――ずきと頭が痛んだ。
ぎゅ、と目を閉じそれに耐える。
痛みを感じたまま、暫くの間その場に留まった。]
[頭痛が治まった後、ゆっくりとした足取りで広間に戻り。
そこに居たイヴァンに近づいてゆく。]
…まだ顔色悪いみたいだが。
昨日みたいに、ここで寝るなよ?
[額にぐいと、熱を計る時のように手を当ててから。
まだ広間に残っていた者がいたら、休むからと一言声をかけて二階へと*戻った。*]
[元々、口数が多い方ではないものの。
それでも、さすがに食事の間の口数は少なく。
いつもなら、片付けるまでそこにいるところだが、早々に二階へと引っ込んでいた]
……は。
まったく、やってられねぇ……。
[口をついたのは、悪態。
その様子に、猫が不安げに、鳴いた]
……大丈夫だ、ヴィンデ。
わかってるから。
[不安げな猫を抱き上げて、撫でてやる。
温かさに感じるのは、安らぎ]
もっとも……わかってるから、嫌、なんだがな……。
……動き出してしまえば、止められない。
[理由までは知らぬものの。
その事実は、以前の事でわかっている。
要素が揃ってしまえば、止められないのだと。
狂ったように哂っていた者の記憶は、六年の歳月を経ても追いすがる悪夢の一つ]
……逃げた所で……無駄、という事なのか……。
[伏せられる、暗き翠。
猫がまた、鳴くのを撫でて。
筆が進むとは思えぬものの、再び机へと向かった]
─翌朝/二階・個室─
[やはりというか、そんな状況で言の葉が紡げるはずもなく、夜半過ぎには眠りに就く事となったのだが。
黎明。
異変は、不意に訪れた]
……ん……。
…………っ!?
[感じたのは、違和感。
それに突き動かされるが如く、文字通りに跳ね起きる]
……いま、のは……。
[久しく感じる事のなかったもの。
意味するものは、知れるが故に、認めたくはなく。
ふるり、と頭を振った時。
外からの騒ぎが、耳に届いた]
……なん……だ?
[聞こえる声。
「団長が」
「村長に報せを」
「やはり、この中に」
飛び交うそれらは、今感じたものとも相まって、嫌な確信を強めてくる。
逡巡は、短く。
黒のコートを羽織ると、足早に外へ、声の聞こえる方へと向かった]
─翌朝/集会場・裏手─
[空気が冷たい。
外に出て最初に思ったのはそれ。
白い息を吐き出しつつ、向かった裏手には自衛団員たちの姿]
……何が……。
[起きた、と問うより先に、向けられるのは。
畏怖、恐怖、疑念。
それらが混沌とした鋭い視線]
何が、起きたんだ……?
[それに臆する事無く、再度、問いを投げる。
返ってきたのは、罵声すれすれの物言いによる、自衛団長が死んだ、との答え。
垣間見えた屍。
凍りついたその様子に、言葉が失せた]
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