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[トビーのしていた様に][内鍵を掛け]
[彼の眠る寝台に][物音を立てぬよう][静かに忍び寄る。]
[あどけない寝顔]
[乱れた上掛けを掛け直し]
…危険?
[また少し眉を寄せて。
だが彼はまだ殺されてないと思っていたから、そのせいだと思い直す。
トビーという言葉に、あの少年を思い浮かべる。いつの間に仲良くなったのだろうか]
[寝台を見る]
[それは、少年一人には随分と大きなもので]
[もう一人位は寝られそうなスペースはあるものの]
……
[怯えの色][目が泳ぎ][諦めた様な嘆息]
[暖炉に火を入れ]
[カーテンやテーブルクロスを外し][包まり]
[炉辺で丸くなって、横になる]
[赤く照らす火の]
[踊る様に魅入る内]
[浅い睡りへと*堕ちて行く。*]
…そろそろ、お休みになられたほうが良いでしょう。
お身体にも障ります。
[広間に一人残っていた少女に声をかけて。
少女を伴い、自室へと*向かう*]
―ニ階・客室 朝―
[ ――結局、青年は其の最期を目にする事は無かった。
静寂に包まれた此の部屋で、睡りについたのは大分遅くの事。然れど目覚めは早く、結果的に殆ど睡眠は取れていない。眠気は無いのに躰は休息を欲している様で、揺らぎかける頭を押え緩々と首を振り、寝台の端に腰掛けた。
昨夜の服装から上着だけを脱ぎ胸元を緩めた白のシャツの下、先日程では無いにせよ僅かに汗ばんだ肌の感覚がぞわりと背筋を震わせ、黒曜石の双瞳を伏せ床を見詰めれば睫毛の作りし影が頬に落ちる。]
[ 使用人の部屋からでも取って来たのか、卓上には紙巻き煙草が一箱と硝子製の灰皿。侍女が居たのならば室内での喫煙を咎められただろうし、普段ならば青年も外で吸うのだが、現在は出る気には成れなかった。シガレットを指で挟み、先を銜えれば安物のジッポのホイールを回して着火させる一連の仕草は既に手慣れたもの。
微か開いた薄紅の口唇の間から吐き出される煙は開かぬ窓の外へは逃れる事も出来ず、暫しの間宙を漂う。通風孔が在りはするも矢張り喫煙には向かない環境で、普段彼が吸うものよりマシだとは云え、煙草特有の其の匂いは青年だけでなく軈て部屋中に染み込んでいく。]
……。
[ 喫煙の合間微か唇を動かすも声とは成らず、其れは他者の耳に届くことはない。煙草を持たぬ片手を躰の後ろに突いて体重を預け足を組めば、思考を放棄したかの如く遠い眼差しを遙か彼方へと向け、*唯、静かに紫煙を燻らせる。*]
−客室−
[部屋は十分広いとはいえ、人影を見つけるのにはさほど難しくはなく。崩れ落ちた熾がけぶる暖炉の傍で、大きな布地に包まり眠る青年の姿に、ほぅと安堵の溜息。]
…お兄さん……?
[小さく小さく呼びかけるも、返事はなく。よく眠っているのだろうと、起こさぬように静かにベットから滑り降りた。]
……ぁれ?
お兄さんの…寝言じゃ、ない……?
[――目覚める原因となったはずの、声。
今思えば、それは、メゾソプラノのように高く、尾を引いていたような気がして。すぅと血の気が引く。]
まさ、か。 また…だれか……?
[明らかに震えながら、それでも部屋に閉じこもるのではなく、確かめに動いたのは。陽の光に既に魔が追い払われたはずの時刻だったからだろうか?]
−廊下−
[早朝ゆえか、廊下はしんと静まり返っていて。
まだほの暗い廊下を、声の聞こえたと思しき方へと進む。
半ば夢現に聞いたのだから、はっきりと確信があったわけではないけれど。どこか、聞き覚えのある声のような気がしたから。
確か昨日、このドアから姿を見せていたはず――と。
メイの部屋の扉をノックする。]
[コンコン、コンコン]
メイさん? ボクです…トビーです。
起きていますか……?
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