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はい。
勝手に持ち出したのは申し訳なかったのですが、…ずっと、あの部屋が気になっていたものですから。
……でも、それだけです。
[笑みすら浮かべて、平然と嘘を。
その手は下のほうへ少しだけ動いて、けれど止まる]
ええ、人狼なら――武器などなくても。
[そう呟く時、声色は僅か低くなって]
[ 笑みを消せば何処か気怠けな表情で腰掛けていた寝台から立ち上がれば、首筋に手を遣りゆっくりと巡らせ、僅かに目を伏せて小さく溜息を吐く。其れから一度緩やかに瞬きをすれば、其処に在るのは何時もと変わらぬ、ハーヴェイ=ローウェルという一人の青年の姿。――何も変わりはしない。]
-広間前-
[彼女の声は、既に顔を見なくてもわかる。
感情を抑えた、ともすると冷たく聞こえる声。
けれど、その声の持ち主が決して冷たい人ではないことを、その声が時にとても優しく聞こえることをヘンリエッタは知っている。
男の声は最初、誰だかわからなかった。
口調と声の消去法で、それが、少年を殺した男のものだと気づいて、体を強張らせる。
彼女が危険な目に遭いそうなら、いつでも飛び出せるようにそっと、開いた扉の隙間から中を覗いた。]
気になるのは仕方がない。開かずの間だったみたいだしね。
[声音が変わるのに気付き]
…警戒されてる?
仕方がないか。あんな事の後じゃ、な。
俺はあんたを殺す気はないよ、今の所は、ね。
あんたが俺を殺すって言うんなら抵抗はするけど。
[ 一階に辿り着けば赤髪の少女の姿は見えただろうか。然れど気にした様子も無く、すいと其処を横切り当て所なく廊下を歩む。]
[扉の僅かな隙間では、青い髪の男の背に隠れ、ネリーの顔は良く見えない。
「武器庫」「鍵」「持ち出した」思いもかけない言葉が出て来て、耳をそばだてる。
彼女が、鍵を持ち出したことを認めた時、思わず息を飲んだ。
彼女が武器庫に何の用があったと言うのか。]
――音楽室前――
[流れるような鍵盤の音を背に、少女は扉を閉じる。
背後で呟かれた言葉は耳に届く筈も無く――]
だって…。
神父様と――あの人との思い出は…私だけのもの…。
だから誰とも…分かち合いたくは無いの――
憎しみも、悲しみも全て――
[扉に寄りかかり、少女はそっと薄紅色の唇を指でなぞり――]
[さらり――]
[金糸を宙に靡かせて――]
[ふわり――]
[再びルーサーの眠る部屋へ――]
――音楽室→アーヴァインの部屋へ――
[ネリーの話を聞いて、考える
鍵を持ち出したことをあっさりと認めた
その先を言及されるかも知れないのに]
多分、嘘は言ってない…。
本当に持ち出さなかったかは別だけど
でも、この状況…持ち出した、と言った方が納得するだろう。
身を守る為に、と言う理由で持ち出したといえば不自然じゃない。
……でも、持ち出さなかった、と彼女は言った。
何故、持ち出さなかったのか、と思えば疑いの目もかかるだろうに。
[人狼ならば、との言葉に僅か反応した、声
あれは自身を疑われたとの動揺だろうか?]
もっと上手く誤魔化すだろ、あいつらは。
[つまりはネリーを信じるということ]
…
[如何してこうもすんなりと。そうは思ったけれど、口にはしない]
いえ、あれは…事故でしょう。
[少年の姿を見遣れば、声は僅か悲哀を帯びたか]
如何して殺すと言うのですか?私は何も持ちませんと言うのに。
[その後の言には、あくまで惚けてみせる。
尤も、あの赤毛の少女を殺すというのなら――意識は僅か刃に向くか。
その少女が今まさに扉の向こうにいようなどとは、彼女は思わずに]
……だとすると、疑わしいのは誰だ?
[考える。
そういえば、今日はあの神父の姿を見ていない]
…いつもなら顔を出すはずなのに…?
悪い、ネリー
ちょっと人を捜してくる。
すぐに戻るから。
[そういって、広間の外へ]
[止まっていたはずのピアノがまた歌いはじめる。
けれど、その旋律は自分の心臓の鼓動に邪魔され、良く聞こえない。
扉の向うの会話も、ピアノと鼓動に邪魔されて。
青い髪の男は、彼女のことを疑っているのだろうか?
自分は、ネリーのことを疑っているのだろうか?]
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