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[ふらふらり。
何となく、足が向いたのは鉱山の方だった。
どこまで自分は仕事馬鹿なんだろう、などと考えながら、そこらに零れ落ちている原石の欠片を拾い上げる]
……こんなんじゃ研磨も出来ねぇよ。
一つでも良いから、塊落ちてないもんかなぁ。
[そんなことを言いながら、日暮れまで誰も居ない鉱山の入り口付近をふらついていた]
人狼に脅されている。のかな。
[ぽつりと呟いて。もう一度思考の海へ。]
ティルを視たと言った理由として考えられるのは……
ひとつには、人間のティルを視たふりをして、人間、と素直に言った。
ふたつめには、人狼のティルを視たふりをして、人間、と嘘をついた。
人狼を判別できる力がある、って名乗っているのは自分だけなんだから、人狼を視て人間といった可能性は少し高い……? そしたらその人狼は疑われることもないし。
でも、そういう力を持つ者がいるかもしれない、ってまだ警戒してることも考えられる。
なら、人狼を視るような真似はしない、かな。
[結局は]
……判らない。
[首を振るしかない。]
君には、負けると思うが。
[捻くれてる、という評価にくすり、と笑いながらこう返し。
続いて投げられた問いに、僅か、首を傾げて]
聴こえる者……?
俺が知る限りでは、見極めるもののもう一方──死者の声を聞くものが、一つ。
それ以外だと……余所の伝承には、意識の声を聞き取り、会話できるものなんかも出てくるが。
あと、考えられるのは、狼の囁きを聞き取れるもの……かな。
[力ない笑みには僅かに眉を潜めたが。
オトフリートに促され、こくりと頷き素直にそれに従う。
暗い玄関の中へと入り、完全に影に沈みこんだ後で振り返り、闇の中からオトフリートを見あげた。]
ミリィの事は、心配しないで下さい。
…ずっと、傍に居ますから。
[小さくどこか冷たさを含む声は、今はオトフリートにしか聞こえない。]
どうぞ、お気をつけて。
Mein domine.
[さら、と衣擦れの音。深く一礼するような気配。
そしてオトフリートの姿が見えなくなるまで、その場に暫く佇んだ。]
そう。解らない。
[確認には頷きを返して、ユーディットの結論にあっさりと同意した]
そもそも人狼と通じているかも解らないのだから、
仮定を積み重ねれば、理由なんて、幾らでも考えられる。
ただ、人間ではあるから、
今は放って、様子を見るしかないかな、と。
それくらい。
真偽まで判れば良かったんだけれどね、大分、力も落ちたみたいで。
[残念、と肩を竦めてみせた]
[ユリアンは「人間らしい」、そうアーベルが言っていたという情報を頭の片隅に置く。
二人の不穏なやり取りには少し身を引いて、少し困ったように両方の顔を見ていた。
聴こえる者、の話題になると、はっとして]
あ、はいはいはいっ。
[勢いよく手をあげる。]
あの、ブリジットさんに聞いてきました。
ブリジットさん、死んだ人の声が聞こえるそうです。
ギュンターさんの声も聞こえてた……聴こえてる、らしいです。
[イレーネと場所を入れ替え、灯に照らされた口元には薄い笑み]
よろしくお願いします。
[踵を返し、振り返らずに去ってゆく。夜の闇の中へと]
俺に勝ったら人間として終わると思う。
[まあ、それはおいといて。
と、一つ言葉を区切ってから、エーリッヒの回答に耳を傾ける]
余所の伝承――成る程、ねえ。
それが存在するとしたら、先の仮定も、変わりそうだね。
その事を口にした当人が、
あの場では話さなかったのは気になるけれど。
[起きたのはいつだったか、陽の当たる、だがどことなく薄暗く感じられる村の中を、ふらふらと歩く。どこを目指すという風でも、誰を探すという風でもなく。時折会う村人は女性を見るなりそそくさと去っていったり、遠巻きに何か噂話をしたりした。それも気にはしないようで]
黒は白と変わり得るか。
白が黒と変わり得るのなら、それも有り得るのではないか。
質量保存。
どう思うね、諸君。
[誰に向けてか、誰に向けてでもないのか、時折語りながら。段々と暗くなる中、歩み続ける]
[挙手したユーディットの言葉に、そちらを見やり]
ブリジット、が?
昨夜、話してたのは、それか。
死者の声を聞く者……ね。
[妙に納得してしまったのは、昔からの彼女の様子を知るが故か]
……それを言い切るのはどうかと。
[アーベルには一応突っ込みを入れつつ]
囁きを聞き取れるものが、いるならば。
ある程度の図式は成立するのかな、現状で。
……ん、当人、って?
予知夢って言っていたくらいだから、
てっきり、視えるとでも言い出すのかと思ったけど。
[意外、という呟きは、小さなもの]
まあ、でも確かに、何かの声の一つや二つ聴いていそうだ。
[アーベルの返事に、そう、と返し。]
昔からそんな力があったの?
それは……大変ね。
[人の何かを余計に見られる、ということは、便利だろうが時に非常に疲れることのように思えて、そう言った。]
意識の声を聞き取り――
――狼の囁きを聞き取れる?
[エーリッヒの声、前者についてはよく判らなかったが、後者は。]
それって、そんな人が居たら、すぐに人狼が誰か判るのに。
[でも、もしそういう人が人狼の味方になっていたら?
ふっと過ぎった考えに、背筋が一瞬凍った気がした。]
成立し過ぎて、気味が悪いけれどね。
[ゆるり、身を起こす。
肩を鳴らして、伸びをした]
ゼーナッシェさんだよ。
あの場で此方に訊いておきながら、
自分の知る情報を明かさないとは、ねえ。
だから、こんなに捻くれた訳。
[白金のピアスを指先で弾きつつ、ユーディットに、笑って言う。
後に続いた言葉には青の瞳を眇める。可能性はまた一つ、増えた]
さて、と。
言う事も言ったから、そろそろ失礼しようかな。
[宿の雨戸は固定されており、外の様子は漏れてくる光程度にしか判らず。今が何時なのか自分がどれくらい寝ていたのかもわからないまま]
…どんくらい寝てたんだろな。俺は…。
[いつもの癖で頭の髪をかきあげるが、それに合わせて鈍い痛みが響く]
…うわっちゃー…二日酔いかよ。
ああ、確かにすぐにわかるだろうが。
聞こえる理由は、『そちら側』に惹かれる要素があるが故、という場合が多いらしい。
……それに、それを理由に告発したとしても、大抵は狼に連なる異端として蔑視されるか、最悪、処断されるだろう。
[ユーディットの言葉に、淡々とした口調でこう言って]
……ほんとに、な。
出来すぎなのも、色々と考えちまう。
[アーベルの言葉には軽く、肩を竦め]
先生が、か……。
ん……まあ、中々手の内は晒さん人だと思ってるが。
あら、確かに捻くれてるけど、私はアーベルのこと好きよ。
[笑みには微笑み返して。
アーベルとエーリッヒのやり取りを頭に入れ、オトフリート先生が……と、呟いた。
まだ、その瞳は思考の中。
ふと、退出するアーベルの声が聞こえ。]
え、もう帰るの? お茶でも飲んでいけばいいのに。
[オトフリートの姿が見えなくなったのを確認してから、知った家の中を歩いて二階へと。
部屋の中に入り、昨日と変わらない場所にあった絵は――確かに美しかった。
夜の闇の合い間に煌く月に照らされ、空の色は鮮やかな七色に変化し、輝き。
暫く、見とれた。
ミリィの事も何もかも忘れ、ただ美しさだけに魅入られた。
数分だったか、それとも数時間だったか。暫く後にはっと我に返った。]
…これ、って。
[あまりの美しさに寒気がした。
美しくて、美しすぎて―――これは危険だと、思った。]
「あやふやな知識」だったからかも知れないけれど、ね。
[一度、訊きに行くとしようか。
そう、内心独り言ちつつ扉へと視線を移しかけ――ユーディットの言葉に、彼女の方を見た。微かに、笑みを作って]
それは、どういう意味で?
場合によっては趣味を疑うけれど。
いや、よらなくてもかな。
[ノブに手をかけた]
そうしたいのは山々だけれど、エルザ姉が煩いから。
……対策のための知識を求めて、とは、言っていたが。
[呟く緑の瞳に宿るのは、思案の色。
帰る、というアーベルの言葉には、ああ、と声をあげ]
そっちも色々と大変かも知れんが。
……無理は、するなよ。
やっぱり……。
[エーリッヒの淡々とした説明に、嫌な予想が当たっていたことに、ため息をつく。]
処断されるのが怖いというのは、判りますけど。
人狼に惹かれる人の気持ちなんて、さっぱり、全然、まったく判りません。
あれはただの化け物です。
人を玩具にして弄んで全てを奪い取ってせせら笑う。
そういう生き物ですよ。人狼というのは。
[一瞬、瞳に暗いものが浮かんだ。
だがそれは本当に刹那のこと。]
どういう意味?
……って、そのままの意味だけど?
失礼ね、趣味は悪いほうじゃないわ。
ん……、それじゃ、気をつけて帰ってね。
[そう、彼女にこの絵はかけるはずがない。
彼女の描いた絵を、それこそ練習のものから未完成のものまで、いくつも見せてもらった事はあるが、それらは全て彼女の父親のものと比べると、確かに見劣りしていた。当然といえば当然の事だったが。
けれどこの絵は、父親のそれを軽く越えていた。
そんなこと、ありえるはずがない。
昨日、未完成だった頃のそれは確かに彼女の絵だったのに。
たった一日でまるで生まれ変わってしまったように見える。
描ける筈のないものを、彼女は描いてしまったのだ。]
………ミリィ…。
貴女、一体何をしたの………?
[ベットの中で眠る親友は、何も答えてはくれない。]
まあ、俺にもわからんけれど。
……人の考え方なんて、それぞれだからね。
[ユーディットの言葉に軽く、肩を竦め。
瞳に一瞬過ぎった陰りらしきものに、微かに眉を寄せる。
最初に自衛団長から話を聞いた時もそうだったが、彼女が人狼について語る時は、いつもと違うものが感じられ。
それは、微かに気にはなっていた]
エーリ兄には言われたくないね。
[けらり、軽く笑った。
ユーディットの疑問にも、やはり笑んで]
男相手にそういう事言うと、誤解するかもねって話。
[そうして、片手を挙げ、メルクーア宅を後にした]
[闇の中から現れた姿。
窓からの灯りに浮かび上がったのは、口元の歪んだ笑み]
お待たせをしましたか。
[熱を帯びた声は静かに投げかけられた]
[日も暮れてきた頃だったろうか。ふと僅かに目を見開き、空いている方の手で片耳を押さえる]
……変容!
[声をあげながら、広場へ続く道の端へとしゃがみ込んだ]
…………。
大きなお世話だ。
[立ち去り際の言葉への反論は、多分、届きはしなかっただろうが。
アーベルが立ち去ると、一つ、息を吐いて]
考えるための要素は大分増えたが……。
さて。
[どうするか、と。
零れ落ちるのは、小さな呟き。
未だ、自身の力にて成すべき事は、明確に定まらぬままで]
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