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[術符の言葉が全員に聞こえるとは限らない]
[けれど今この状態で他に伝える手段はこれしか無かった]
[己が見たクロが誰なのかのヒントは落とせど]
[はきとしたことは伝えていないために]
[結果がどうなるかは賭けに等しい]
(…少なくともアーベルには届くはず)
(上手くやれよ)
[その間も腕からは赤い雫が零れ落ちる]
[致死量には至らないが、徐々に意識は揺らいでくるか]
─教会─
捻くれてるもんでな。
ただじゃ倒れてやらん。
誰かさんの言うには俺は地雷らしいからな。
お前に消されるなら──お前も道連れだ。
[朦朧とする意識の中]
[険を含んだ友人の顔を見た]
[黒蛇と化した影が大きな口を開き、こちらへと迫って来る]
[身体に避ける程の力は残っていない]
[元々同僚宛てに調整された術符を、己の力を注いで別の人物へ届くように調整したのだ]
[それによる疲労も少なからず溜まっていた]
なぁ、最後に教えてくれ。
──お前の信じる神はどこへ行った?
お前だけは、俺の代わりに神を信じてくれると思っていたのに──。
気がついたら、あそこが道になってたんだよ。
仕事……って。
そか、ねーさんも、失踪事件調べてたんだ。
普通に捜しても見つからない、わからない、だもんね……。
それなりの所からの、圧力もかかってるみたいだし……って。
[不意に、途切れた言葉。
途切れさせたのは、風による『呼びかけ』とは異なる『声』]
……え。
なに、今……の?
[零れ落ちたのは、困惑を帯びた、声]
―――っ!?
[突然、魔剣がビリビリと哭いた。
物言わぬ、色々なものに姿を変える、気まぐれで、それでいて出所の分からぬ奇妙な魔剣が唸りを上げる。
沸き出、溢れ出る奔流は、一方的に送られた魔法の念にまるで怒っているかのようだった]
お、おい!?
なんだ、どうした!静まれ!
[湧き出る黒い力は、全て、周りのもの全てを飲み込むように鎌首をもたげ、命を刈り取るべく―――]
―――静まれっつってんだろ!コラァ!!
[……―――]
[レナーテが強靭な精神力で持って、その魔剣の暴走を無理やり引きとめた]
そっか、アーベルくんどこかに出かけちゃってるんですか
[心底残念そうに呟く
そして、ハンスと同じくアーベルが何かやらかしたのか聞いてくるエルザに、くすりと苦笑を浮かべる]
……うん、まあそんなところ
―大通り―
聞きたいことがあるって、ゲルダさんが。
[告げられなかった行き先までは尋ねず]
[きっとゲルダが問うだろうと思った]
[揺れる翠の瞳からそっと視線を外す]
いや。俺もそのつもりだったから。
けどね、カヤ君は違うらしい。
[自衛団はまだ情報を出さなかったかもしれない]
[ただ今の自衛団にエルザをあまり近づけたくは無くて]
後悔はしない。俺なりの判断だ。
ただ、どうしているかと思うとね。
[裏腹な言葉が今の真情]
[そしてピクリと動きを止めた]
[影は友人の頭上、すぐそこで大口を開けたまま静止する。
微かに耳に届いた問いに、彼は眉根を寄せた]
知るものか。
[言葉は、吐き捨てるように短い]
……ったく。
あんだってんだ、いきなり。
[少しだけ額に汗をにじませながら、レナーテがぼやくが、すぐにアーベルに照れたように笑った]
おお、すまん。
それで、えーと。
何の話だったっけ?
[一気に起きた色々に、しばしぼーぜん、としていたものの。
レナーテの問いかけに、はっと我に返って]
……ええと、失踪事件……って!
ねーさん、今の、聞こえたっ!?
[勢い込んで、問う。
捉えた呼び声は、目の前の女性にも向けられていたから]
ええ。ごめんなさい。
[出かけているのは本当。
目的を教えていないだけ]
用事があるのなら、
あとでミューラさんのところに行くよう、
伝えておきますけど。
[苦笑されるようなことをしたのかと眉を寄せた]
[けれど、ハンスの否定に意識は逸らされ、]
……そうなの。
[カヤは違う。
彼の否定に、安堵と同時に痛みを覚えた。
自らの胸元に手を当てて、軽く握る]
違うのなら、早く出してくれればいいのに――
ハンス?
─教会─
[返された言葉にこれだけは悟る]
[彼にも、もはや信じる神は居ないのだと]
……そうかい。
てめぇと、友として在った理由も消えちまったな。
─── Auf Wiedersehen ──
[別れの言葉] [訣別の言葉]
[その言葉を口にし、男は口元に笑みを浮かべた]
[滅多に見せぬ、寂しげな表情を*浮かべて*]
今の?
[理解していない表情で問い返すが、あー、と小さく呟くと苦笑した]
ああ。アタイの魔剣の唸りのことか?
いやこいつ、たまに機嫌悪くなんだよ。
元々、出所はわかんねえしろもんだけど、どうも一説には呪いの魔剣とも呼ばれていたらしくてな。
そこらへんが関係してんじゃねえかって思ってんだが。
[昔から魔法を向けられると、非常に攻撃的になり、回りのものを飲み込んで殺してしまうほどえげつない魔剣であったのではあるが、レナーテがそれを知るのはもっとずっと先のことである。
ただ、今あまりへぼい結果にしかならないのは、偏にレナーテの人格や、心体の鍛え方の賜物でもあった]
―大通り―
[呪歌は齧れど魔法の心得は無く]
[内容の殆どは聞き取れなかったが]
……彼の方か。
[声の種類から隻眼の記者が会いに行った相手が誰なのか]
[それだけは理解した]
エルザ。君は今の……いや、なんでもない。
[訝しげな顔に首を振った]
[彼女の名前が呼ばれたのも確りとは聞き取れなかったから]
保護も兼ねてと、そういうことらしい。
自衛団はまだ疑っているのかもしれないな。
[真実は知らない][誰かが手を回したのかどうかも]
[ただ掴めた事実はそういうものだったから]
[エルザからの提案にはほんの一瞬考え込んだが]
ええ…………じゃあお願いしようかな
[『相方』の通信機越しの会話はこちらにも聞こえていた
目の前にいる二人の反応から、魔道の心得のない人物には届いていなさそうなのが幸いか
ただ、目的の人物には確実に伝わっていることだろう
ならば、向こうもこちらを探すはず。結論は大して変わりはしまい]
そうじゃなくてっ……。
[魔剣の説明に、ぐしゃ、と苛立たしげに前髪をかき上げる]
ヴィリーのにーさんの、声が聞こえたんだ。
多分、魔法的な方法使って、飛ばした声。
……犯人、見つけたって……。
教会。いかないとっ!
[言うのと、身を翻すのは、どちらが先か。
風を手繰る、という意識は、今はなく]
……?
[歯切れの悪い返答に首が傾ぐ。
追求する前に、気は他所に移った]
保護……、か。
[思案のいろを見せる。
べティに続き、今度はヴィリーが狙われた。
カヤではないのならば、誰が――]
ああ、はい。
[思考は中断された。
はっとした表情で、ゲルダを見る]
ただ、またあちこちうろついているでしょうから、
遅くになってしまうかもしれません。
……私で代わりになれるなら、お聞きするんですが。
…勝手なことを。
[彼は眉を寄せたまま、友人の顔を――初めて見る表情を眼にした]
ああ。
――さよならだ。
[平坦な声に感情は浮かばない。
俯いた表情は隠れて伺えない]
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