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ふ。
[そんなことかと、口角を釣り上げます。]
そう簡単に世界は変わらないわ。
失くしたものも戻って来ない。
――だったら、初めからやり直すほうが早いでしょう?
[反撃が来るのは覚悟の上。今の自分の避けるほどの俊敏さは無い。だから]
他人に任せて結果を待つほど、私は大人しくないのよ!
[蹴り下ろされる足に対し左腕を掲げる。体勢が低いのはそのまま膝をつき、蹴りを受け切るため]
……っ!
[重力をも伴った蹴りは重く、かなりの衝撃を伴う。けれどその威力を受けながらも、右手に握った牙で相手の脹脛付近を思い切り切り払った]
最初から決め付けて何が出来る
喪ったものがかえらないことくらい――誰だってわかっている
誰だって、経験する
それが生きているということだろう
最初からやり直しても、お前がそのままなら何一つ変わらないぞ
[よろりと立ち上がり、再びナイフを力強く握り締める。]
お嬢さん……危ないよ。
なんて、聞く耳は持って無さそうだけれどね。
[シャーロットに気を取られている隙を狙い、ナサニエルに向かってナイフを振るった。]
[手応えはあった。鮮血が飛び散り、少女を紅く染める]
[けれど少女も無傷では無く、左腕への衝撃は骨を伝い肩や足にも影響を及ぼしていた。掲げていた左腕が力無く垂れ落ちる]
…悔しいけど、私が動けるのはここまで、かしらね。
[呟き、ギルバートが再びナサニエルに向かう様子に邪魔にならぬよう隅へと転がるように移動する]
ああ、――そう。
期待するだけ損ってことね。
[静かに息を吐きました。]
…知った風な口を。
[赤の男にはそれだけ返し、視線が逸れたらしいことを悟り、後ろに下がります。
手許には灯。
そうして背のついた壁、その傍らにも、明々と燃える灯がもう一つ。]
[もはや全身は返り血以外の己が血によっても赤く濡れていた。]
[だが、まだ立っている。]
[荒く肩で息をしながらも、高揚した精神は倒れることを許さない。]
[背後でギルバートが立ち上がるのを感じた。]
[振り返り、今度こそ男を切り裂こうと真横に腕を振るう]
[ことは、出来なかった。]
[背に開いた大きな傷]
[振り返ろうとする動きのままに、]
[男は、蹌踉き、倒れた。]
[溢れた血が男の身体の下の床に血溜まりを作った。]
本当。
獣なんかに、頼らなくても。
最初っから、こうしておけばよかったんだわ。
[壁から灯を毟り取って、
その2つを、地面に叩き付けました。]
[壁際、顔にかかった紅を服の袖で拭いながら、ギルバートの振るう刃を滅紫が追う]
[ナサニエルの反撃は形を成さず、ギルバートの刃は彼の背中を切り裂いた]
[倒れ行く青の青年。滅紫の両目に、夢幻の赤い華が咲き始めていた]
[背後で炎が倒されるのに気付かず、男は階段を上る]
[そして、倒れたナサニエルを見た]
――ラッセルは、お前に生きていてほしいと願っただろうにな
[それだけを呟き、上ってきた階段を見る]
[乾いた絨毯に、朱が広がってゆく――]
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