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……誰もが、息絶えるまで、終わらない……。
そんなの。そんな終わり方……!
[思わず声に出すのと、白金が駆けるのは、どちらが先か]
……え……。
[ぶち猫が鋭い声を上げるのが聞こえた。
手が引かれ、抱き寄せられる。
視界が狭くなり、状況が掴めなくなった]
[クロエに狙いを定め駆けるヘルムート。それに割って入るヴィリー。老体は即座に反応することは出来ず、ならばと別の行動をとる]
[ヘルムートに隙を作るべく、彼の右側へと回り。手にしたままだった血濡れた短剣を振るう。タイミングはウェンデルが放った鉛玉とほぼ同じだったか]
[フーゴーの短剣を避ける為]
[白金の狼は、傷ついた脚を引きずり軌道を変えた]
[けれど、其れが大きな隙を生む]
[キャリンッ]
[金属同士の擦れ合うような其の音が獣の音には大きく聞こえ]
[更にもう一つ届く音は、銃声]
[二つの音に、上がる獣の悲鳴は一つ]
[後ずさり、低く低く喉を鳴らした]
[銀の短剣は左の前脚に]
[銃弾は左の後脚に]
[ぐらりと、獣の身体が左へと傾ぐ]
[顔ばかりが、唯、前を向いて]
[銀の刃が、白金の毛並みを紅く濡らし。
剣を引き抜くと、ぐらり、揺れる獣の姿を真っ直ぐに見据えたまま、クロエ達を庇うように対峙して。]
[最後まで真直ぐに此方を見る、男を見返した]
最悪……。
そういう事は、教えてくれなくて良いのにぃ。
[狼からこぼれる声は]
[おんなのやわらかさも、獣のちからづよさも両方をひめて]
最後に聞かせてくれる?
此れがほんとうに現実だというのなら。
私の書いたものがたりは、誰かが読んでくれる限り。
永遠になるかしら?
[紅が、砂浜へ止め処なく零れ落ち]
[焦げ茶の瞳に濁りが生まれる]
[背後で響く幾つもの音。そして悲鳴。
僅かに力を抜き、クロエを背に庇いつつ向き直る]
物語は。
いつまでも語り継がれてゆくものだと思う。
[紅流す姿を見つめながら、自らの思いを口にした]
……あぁ。
お前の記した物語は、永遠だ。
誰かの記憶に残り、思いが継がれ。
永遠に、語られる。
[白金の獣は、血に濡れて、誰の目にももう長くは無いと分かる姿になっても、尚美しく。
その傍らに片膝をついて、その瞳を真っ直ぐに見つめ、頷いた。]
[聞こえるのは、ただ、交差する音。
やがて、それらは静まり。
聞こえてきた問い。
庇ってくれる肩越しに、白金の姿を、見て]
……続いていくもの、だと、思うよ。
ウチのとうさんが、言ってた。
伝えるものが、受け継ぐものが、いれば。
失われたり、しない、って。
[小さく紡いだ答えは、白金まで届くか]
[傾ぐ獣の身体。
煙を吐く銃口は、獣の頭に定められた。
引き金に指を掛け、けれど未だ引かれることはなく]
……なんだ。
もう終わりかい。
[自分に向けられていない問い掛けに、男が答えを返す筈も無い。
代わりのような呟きは、何処まで届くか、その耳にどう聞こえたか。
いずれにせよ、口許には歪な笑みが浮かんだまま]
[振るった短剣は容易に獣に躱される。けれど隙を作るには十分で、直後に獣の悲鳴が耳に響いた]
[フーゴーはまた黙ってヘルムートを見やる。今手にしている短剣では止めは刺せないな。そう考えながら、ヘルムートがヴィリーに訊ねる言葉を耳にした]
……物語、か。
[ただそれだけを紡ぎ押し黙った。今回のことも結社の系譜として残されて行く。後世結社に属する者達も読むことになるだろう。それが彼の望む物語の在り方かどうかは分からないが。他の者が口々に言う中、それに同意するように頷くだけだった]
[答えの声が返るのを、微かに揺れる耳が捉えて]
[一人一人に言葉を向けた]
ベルちゃんも、クーちゃんも。
二人とも、優しいのよね。
其処が、好きで、嫌いだった。ううん、今も。
[焦点の合わぬ眼差しは、其れでも二人の近さを捉え]
[慈愛にも似た笑みが、浮かぶ]
――……頑張って。
[いつかと同じ、激励の言葉を祈るように呟く]
[次いで吐き出されるのは、溜息]
本っ当、神父様はこういう時に迄、乙女心を理解しないし。
優しくないし。
でも、そういう所含めて、好ましいとは思ってたわ。
其れ以上でも其れ以下でも無いけれど。
[獣の耳には、紡がれた声も良く聞こえる]
あたくしは、今までの一連を物語にして遺してある。
もしも出版されたなら、また逢えるかもしれないわ?
[其れは終わることの無い永遠に未完の物語]
[終わりの無いことの象徴]
おじさま。
[銀の毒が回り、響く声が震える]
宿に戻ったら、リアちゃんを弔ってあげてくれる?
私は、別に良いけれど。
彼は人間だから。
[遺言の一つ、叶えてもらえるだろうと]
[結社の人間を相手にするのではなく]
[宿屋の主人としての彼に願いを告げた]
……ああ、ちゃんと弔うさ。
[ヘルムートの最期の頼み。結社の人間としてでは無く、その望みを承諾する]
…おめぇも、弔う場所に望みがあるなら言え。
死する者に人間も人狼も、関係無ぇ。
[自分は良いからと言う言葉に眉根を寄せながら、今際の時にある相手へと訊ねる。その問いに答えるまで灯火が持つかは分からねど]
ハ。
俺にそんなモン求める時点で間違ってんだよ。
ヘルムート。
[彼女が求めていたのと違う名前で呼ぶ。
けれど男がきちんと名を呼ぶのは、多分これが最初で ]
ほぉ。
……そいつぁ、楽しみだねぇ。
[そう告げた刹那、浮かべる笑みの種は僅かに変化した]
[優しい、という言葉。
好きだけど嫌い、という言葉に、ほんの少しだけ、表情がへにゃ、となる]
……ウチは。
ルーミィさん、嫌いじゃ、ない、よ。
[ぽつり、紡いだ言葉には嘘はない。
続けられた、激励。
最初にそれを向けられた時は、揺らいでいたから、素直に頷けなかった、けれど]
……うん。
[今は。
小さいけれど、はっきりと。
頷く事ができた]
――……本当に、そうなら良いのに。
[覗き込まれても、焦げ茶の瞳は焦点が合わず]
[永遠という言葉の甘美さに、ゆっくりと瞼が閉じられた]
貴方の言う事は、信じてしまいそう。
酷い、ひと。
でも……信じる侭に。終われるのなら……。
――……悪くは…無い、わ。
[其れが、作家である男から零れた最後の言葉]
……俺は。
お前にとって、煩わしい男だっただろうが。
最期に側にいるのが、俺で、すまないな。
[銀の短剣を手にしたまま、横たわる獣の瞳が閉じていく様を見据えたままそう言って。]
…ライの側に、いてくれたこと。
感謝、している。
あいつは、きっと…ずっと、独りだったんだ。
[クロエのように、言葉にすることは出来なかった。
ただ、首を振って、それから頷いて]
ありがとう。
[それだけを口にして、閉じられてゆく瞼を見つめた]
[ゲルダを殺したことは、許せないが。
幼馴染の孤独は、きっと彼が、彼女が、少なからず癒してくれたのだろうと。
そう思いながら、物言わぬ骸となった白金の毛を緩く撫でて。
ゆるりと立ち上がると、フーゴーに銀剣を差し出した。]
…これは、返す。
もう、俺には、必要ないものだ。
[囁く『声』がきこえたなら一度、目を閉じて。
静かに開き、そこに揺らめくいろを見届ける。
それが、自分のやるべき事だから]
……おやすみなさい、かな。
[零れ落ちるのは、小さな呟き。
ぶち猫が、にぃあ、と鳴く。
銀の鈴が、ちりん、と小さく音を立てた]
[問いの答えは無いまま、ヘルムートの瞳は閉じられる。小さく、短く息を吐いた。後にヘルムートの別荘に居る者に伝え、どうするかを決めようと考える。
そんな中でヴィリーが傍に来て、短剣を差し出してきた]
…おぅ。
……おめぇに押しつける形になって悪かったな。
……ヴィリー、そいつを運べるか。
皆を、弔わにゃならん。
[短剣を受け取りながら訊ねる。皆の中にはヘルムートも含めていて。一度宿屋へ戻ろうと提案した]
[返される声は聞こえていて]
[力無く、白金の耳が揺れていた]
[けれど其の頃には既に、声を出せるだけの力は無く]
[何時しか、微かな動きも消えていた*]
[獣の目が閉じられるのを見、言葉が途切れて暫く後。
頭に向けられていた銃口は、再度の火を噴くことなく下ろされた]
……ったく。
[零れる悪態は何に対してだったか。
銃を懐にしまう代わり、いつものように煙草を出す。
昔仲間を弔っていた時と同じように、火を点け、紫煙を天へと上らせた]
[一つ息を吐いて]
まぁ。
結構面白ぇ奴だったからさ。
[紡ぐ言葉は小さく、相変わらず尊大で]
また逢えるってんなら。
――そん時は、ダチぐらいになら、なってやってもいいぜ?
[その言葉は獣の耳でも、捉えるには遅すぎただろう]
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