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あばよっ、ウェン坊。
[振り下ろした爪はウェンデルの体を引き裂き、
崩れ落ちるウェンデルの体から噴出す血を浴び]
ふぅ…。
[恍惚とした表情で天井を見上げる。
少しの間、余韻にひたり、
ゆっくりとゲルダとエーリッヒの方に視線を向ける]
悪いな、俺は見てのとおり人狼だ。
[やさしく笑いかけ]
少し、話をしないか?
[からん。
力の抜けた掌から、ナイフが滑り落ちた。
緩く握った形の手の内には、聖銀が残るのみ]
……、 。
[浅い呼吸の音。
庇うように立つエーリッヒの背中越し。
兄と慕う人と、その傍らで崩れ落ちる、金と紅の色が見えた]
話?
[左手で握った銀の刃は僅かに震えていた。
右手からは細く紅が流れている]
……何。
[向けられる優しい笑みを睨んだまま、それでも聞き返した]
くっ…
[胸を苦しそうに押さえてから、歯軋り、押さえつけるように手を強く握り]
先に広間にいっててくれ、お茶の用意をする。
[その場の雰囲気には似つかわしくはない提案]
断るとは…もちろんいわないよな?
お、はなし…?
……うん。聞きたい。
[返す言葉は酷く静か。
或いは普段と変わらぬ口ぶりは、甘えるようですら有り。
翠玉は、緩やかに瞬いた]
……分かった。
[構えた左手は下ろさぬまま。
ゲルダを振り返り、頷いて広間へ向かおうと。
その間も動きの鈍さはどうしようもなく。
内心舌打ちをする]
[二人の返答を聞けば厨房で用意をし、
厨房を去る途中ゼルギウスとウェンデルの死体に]
悪い、また後でな。
[そういい残して広間へと向かった、
二人の前にミルクティーの入ったカップを置き、
自分の分を手にして一口すすり]
15年ぶりに村にきた目的、果たさないままにここまできちまったな。
[ゲルダに向ける表情はいつもと変わらぬ従兄弟であり妹のように思っている相手を気遣うやさしいもの]
[左手には刃を握ったまま。
右手は傷のせいもあって力が入らない。
だから、その紅茶を受け取ることは出来なかった。
ただの拒絶とは違う何かを浮かべ。
マテウスの話を黙って聞いている]
兄さんのお茶、好き。
[ぽつり、呟き。
エーリッヒに促されるまま広間へと]
…。
[マテウスの入れたミルクティーのカップを受け取り、掌で包む。
対面に座るその人を見詰めたのは、案外に揺らぎない翠玉の眼差し]
俺がこの村をでていった理由について。
[さらに一口ミルクティーをすすり]
ずっと昔からな、時折、人を殺したい、壊したいって願望が俺の中にはあった。
小さいうちは、時折そう思うことになんの疑問もわかなかった。その思いも小さかった。
だけどな、だんだん年をとるに従いその思いは強くなる一方だった。
俺はいつか自分が抑えられなくなるのが怖かった。
誰に相談するわけにもいかなかったしな。
俺は黙って村をでることにした、15年前の時だ。
傭兵の職業は俺にとっての天職だった、人を殺すのに困らない。
時折発作的に、人を殺したくなる…。
人を殺すことが俺はたのしかった。
この村にはすべてを話すつもりできただけのつもりだった。
この村に来て…、抑えがたいほど、人を殺したくなった……。
衝動的に殺してしまったよ…、最初の犠牲者…。
[ミルクティーをさらに一口]
そこから先は、二人の知ってるとおりだ。
ここにきて殺したくないと、そう思えば苦痛が走る。
殺すことは逆に…、快感だった。これまでの何よりも。
[マテウスの、こちらを見る眼差しは以前と変わらず。
とても、とても優しいもの。
人を殺したかった。
そんな過去から続く思いを聴き、小さな頷きを。
理解でも、拒絶でも無く。
真摯な眼差しを、沈黙とともに向ける。
話しが終わって、考え込むように睫毛を伏せた]
[視線はゲルダのほうへ]
いうのが遅くなってすまなかった。
ゲルダが俺のことを家族だと言ってくれたとき、うれしかった…。
けれども俺はゲルダにそういってもらえる資格はない。
[浮かべる笑みはどこか寂しげで、
エーリッヒに視線を向け]
さて、エーリッヒ。
俺は、二人を殺したい…、この衝動は消えない。
二人を殺すか…あるいは……。
[その先の言葉は続けず最後の一口を飲みカップをテーブルに置く]
ああ、呪い。
ヨハナさんが言うには作られた存在…らしいな。
[ゲルダとエーリッヒに促すように]
それが俺がゲルダとエーリッヒにいれられる最後の一杯だ。
二人が飲み終わるのを俺は待つ。
[目を閉じ、二人がミルクティーを飲み終わるのをじっと待つ]
俺は。
それがたとえマテウスであっても。
ゲルダを殺させはしないよ。
[切られた先の言葉は続けず、静かに返した。
感覚を失った右手。それでもカップに伸ばす。
刃握ったままの左手と両方で挟むように。
ゆっくりと紅茶を口元に運ぶ]
[このミルクティーが、最後の一杯になることも。
それが、最後の時間と等しい事も。
分かっていた。
湿らせるように、口許にミルクティーを運ぶ]
…マテウス、兄さん。
[確かめるような響きで名前を呼ぶ]
それでも、あたしにとっては。
マテウス兄さんは、ずっとあたしの兄さんだから。
[また一口、ミルクティーと最後の時間が減る]
[目を閉じたままゲルダの言葉に]
ありがとうな、ゲルダ…。
ゲルダ、お前は俺の最高の妹だ。
[エーリッヒの言葉を耳に]
覚悟は…いいな?
[確かめるように告げ、
二人が飲み終わったところで立ち上がり]
さぁ、終わりにしようか…、全部。
俺を殺さなければ二人は……死ぬ。
[冷たく告げる言葉、右腕は人のものではない獣のものに]
でも。
マテウス兄さんを選ばないあたしを、兄さんが妹って認めないなら、それでも良いよ。
[口にして、なおさらに胸は痛むけれど]
ごめんね。
あたしも、…兄さんが相手でも。
エーリッヒは譲れない。
[ことり。
カップをソーサーに戻して。
エーリッヒの持つ、銀の刃に手を重ねようと]
それで、兄さんを殺すことになっても。
[動きの鈍い身体。そも相手は荒事の専門家。
どこまで抗えるのか。
そんなことは考えなかった。
ただ、ゲルダを守るのだと。それだけを念じて]
ああ、終わらせよう。
[ゆっくりと立ち上がる。
左手を構え、翠は冷たく燃えるよに]
…うん。
[覚悟を問われ、ただ短く頷いた]
終わらせよう。
[冷たく告げられた言葉。
けれど人ならぬ姿を見て、それでも翠玉は柔らかく微笑んだ]
[ゲルダの言葉が聞こえる返答はなく、二人に右腕を振り上げ飛び掛る。
距離は十分にありきっと二人が反応をするのには十分な距離であったであろう。
振り下ろした手は人間の手、
二人の体を抱きしめるように]
悪いな…二人とも……。
[ささやく声]
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