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ん……分ったわ。
[まだ眠る傍らの夫の髪を一房指に絡め、いって来ますと軽く唇を寄せてから、
音を立てぬよう、静かに褥から抜け出した。
そのまま窓を少し開け、滑り落ちるようにそこから落ちれば、
地面に着地する時には、灰銀の獣の身と転じた。
ミハエルへの言葉には、クスと笑み
そうねと同意するよう呟いてから同胞を待った。]
[自衛団詰め所の傍まで一気に青年は駆けた。
銀の長剣を過信してか一人で歩くギュンターが脇道に見えた。
見回りの帰りなのだろう。
詰め所へ向かい歩いてゆくギュンターに悟られぬよう
じわじわと距離を詰めてゆく]
――……。
[高揚する気を押し隠しながら聲を発した]
俺は咽喉を狙う。
グラォシルヴは右腕を頼む。
[普通に考えれば利き手は右。
腕なら背後からでも切り裂けるだろう。
仮令同胞が遅れたとしても一気にカタをつければ問題なかろう]
[出てきたリヒトに続いて、詰め所まで駆ける、
全力で走る事は叶わないが、気配を殺し影に潜みながら悟られぬよう進んだ。]
右腕ね、わかったわ。
[指示されたとおりの箇所に狙いを定めて
獲物の姿を目にすれば影に潜み、周囲を警戒しながら機を待った。]
[人の姿で隙を作る事は考えなかった。
何時しか青年は漆黒の毛並みの獣へと姿を転じ
地を蹴りギュンターへと襲い掛かる。
黒い影を目にしたギュンターの右手が得物を握ろうとする]
――…遅い!
[大きく開かれた獣の口。
鋭い牙の並ぶ口腔を目に留めた人間は何を思うか。
焦り、恐怖、後悔――混ざり合う感情が見て取れた。
皺だらけの首筋に牙が食い込む。
悲鳴が上がる前に、ゴリ、と首筋から鈍い音。
漆黒の獣は容赦なく咽喉笛を噛み砕いた]
[帰り際、雑貨屋に寄らせてもらうと、茶葉と煙草を持って行こうとして。祖母は娘が戻ってきた事を喜ぶが行かなくては成らない事を聞き訝しむ。結局、雑貨屋から出てくると宿屋へ向かい、ブリジットの姿が見えれば娘は胸を撫で下ろした。*]
[同胞の鮮やかな狩りに、思わず青い目が細くなり、獣の口が弧を描く。
灰銀の獣はすぐさま影から飛び出し、翁が同胞に喉笛を噛み砕かれながらも
なお腰の剣に伸ばそうとした右手に深く牙を立て阻止した。
噛み千切らんばかりの勢いで、刺さった牙を引き傷を作る。]
駄目よ、ギュン爺、駄目。
銀の剣は使わせられないわ。
[くすくすと、笑みながら
ギュンターには聞こえぬコエで囁いた。]
[囁きながらも獲物の腕を捕らえた同胞に
漆黒の獣の金に変じた眸が細まる]
鈍ってねぇな。
相変わらず、見事だな。
[満足げな響きが伴う。
人間の血の味が口に広がった。
結社を名乗る獲物にさして期待などしていなかったが
年老いた人間とは思えぬ甘美な味がする]
トドメだ、結社の爺さんよ。
[再び鈍い音が首筋から漏れる。
骨の砕ける音――獣の重みを支えきれなくなった老体が
静かに傾ぎ地に落ちた]
ふふ……リヒトの初手があってこそよ。
速いわよね、相変わらず。
[二人で同時に人を狩るのは何時ぶりだろうか。
その時と遜色ない動きに賛辞を送る。
ギュンターは灰銀の狼の、腹が膨れている事に気づいただろうか。
目を見開き口を開くが、そこから声が出る事は無い。
トドメをさされたギュンターの瞳から、光は段々と失われて行き、
末路に満足げな表情を見せた。
餌と認識した者に、かける情は、ない。
甘い味のする腕から口を離すと、ぱたりと尾をふり瑠璃色が同胞を見た。
赤い実を食べていい?そう尋ねるように。]
人狼を殺す為の、組織、ね。
殺される側になるのはどんな気分かね。
[血の味と匂いに気が昂る獣は
獲物の首筋から口を離すと笑いながら問う]
もう聞こえない……
否、俺等の聲なんて元々聞こえねぇか。
[獣がつけた傷はギュンターの頚椎にまで達していた。
ドクドクと流れる血が命の灯火が消えた事を示している。
同胞の賛辞に漆黒の獣は嬉しそうに咽喉を鳴らした]
二人で狩るのは久し振りだな。
グラォシルヴがあわせて呉れる御蔭でやりやすい。
……嗚呼、冷える前に喰うか。
[振られる尾に気づけば場所を譲りゆると頷く]
[口許を汚す赤を己が舌で舐めとりながら
意識は周囲へと向けられる]
今度はちゃんと見張っとくから安心しろ。
焦らなくていいからな。
[はたりと振られる獣の黒い尾。
紡ぐ言葉は何処か人間染みていたけれど
発する気配、外に向けられる警戒心は獣の其れ]
――…ヴァイス、狩りは終わった。
今は食事の時間だ。
グラォシルヴは無事だから安心しろよ。
[部屋に残してきたはずのヴァイスルヴに聲を向ける。
律儀に報告するのは同胞を暫し任されているという意識故]
私達を殺そうとするような所だもの、殺されても仕方が無いわ
ギュン爺だけでなくて、結社なんて皆。
[高揚は血を口にしたことで更に高まったようで
くるくると機嫌よく喉を鳴らしながら、残酷で当然な言葉を紡ぐ。]
子供の時から一緒に狩ってたんだもの。
貴方と息は会わせ易いわ。
[そう笑みつげて。同胞の許可が下りれば、周囲への警戒に感謝しながら、
翁の上にまたがり胸元の装備を噛み千切り、外気に老いて乾いた肌を晒させると、
その胸元に牙を突き立て、ごっそりと肉をえぐった。だがそこは食べずに。
肉と骨を牙で掘り、その奥中心に在る赤い実を見つけると、遠慮なく捥ぎ取り一気に喉へと流し込む。
結社と呼ばれる者の味は、酷く甘美だった。]
ああ……素敵。何て美味しいの。
[うっとりとした声で囁いてゆっくりとそれを味わい、
ついでに周囲の肉を軽く喰らってから、翁の上からは降りた。]
心臓が美味しかったからかな、肉はあんまり。血は甘いのだけど。
[翁が老いていることも原因だろうか。
赤く染まった口元を舌で拭い。]
リヒトはどうする?
食べるのなら、見張りは変わるよ?
[同胞に、今度はそう申し出る。
夫への報告には、ありがとうと微笑んだ。]
ヴァイス?
[自身の無事を伝える為に、
夫に声をかけたが彼は目を覚ましていただろうか。]
嗚呼、その通り。
俺達に刃向かう輩は全て屠ってしまえば良い。
[元より結社である老人に情など持ち合わせてはいない。
漆黒の獣は機嫌よさげな同胞の奏でる音色に同調する]
そうだな。
一人だと気楽だが二人なら安心感がある。
きっとグラォシルヴと一緒だから、だな。
[両親とは直ぐに離れて育ったから
彼女以外と共に狩りをしたことはない。
結社の血肉に舌鼓を打つ様にはゆると頷く]
お気に召したなら幸いだね。
俺も少し頂くとするか。
[同胞がおりた翁に前足を乗せる。
抉られた深く大きな傷を更に広げるように牙を這わせた]
老いた肉だから仕方ねぇか。
[筋張る肉を強靭な頤で咀嚼し嚥下する。
赤い舌がぽっかりと空いた穴を舐め血を啜った]
やっぱ柔らかい肉が良いな。
次の獲物は若いのにしよう。
[血だけでは物足りず
さりとて肉は口に合わなかったようで
殆ど食べずに獲物から離れた]
待たせたな。
ヴァイスの待つ宿に戻るとするか。
[実際漆黒の獣が戻る部屋は別なのだけれど
同胞を促せばしなやかな二匹の獣が闇を駆けた**]
[周囲に気を配りながら、同胞のコエに喉を鳴らす
獣の本能に大きく支配された今は、敵を餌を下す言葉が心地いい。
安心感がという言葉には、一緒に狩りした時々の事を思い出し。]
そうね、リヒトと一緒だと、怪我も失敗も殆どなかったし。
[人狼だった母親は、自分を産むとの引き換えに死んでしまった為、
こちらも彼としか狩りをした事はなかった。
狂えた人たる父親―父は狼のコエを聞く事は出来ない人だったが―
から母はこうしていたと聞くことはあったが
聞くのと実際に動くのとは違う。]
[硬い肉に不満を零す同胞に、頷くように尾が揺れた。]
そうね、次は……
[さて次は何時になるのか。
このまま都合よく事が収束すれば、それは随分先の話に成り得るだろうが
どのみち朝を迎えれば分かる事だろうか。]
若い肉、か……
女の子か、あの綺麗な翡翠の子は美味しそうよね。
[ぽつりとそんな言葉を漏らしながら
待たせたと、夫の名を告げられれば、獣はこくりと頷き。
こちらを気遣い速度を落としてくれた同胞の後を追うように、静かに闇を駆けた。]
[獣の姿のまま、外の水場で軽く口と手を濯いで血を落としてから、
宿に戻るとリヒトと別れて、自分は夫の待つ部屋へと滑り込んだ。
夫はまだ眠っていただろうか。
起きて迎え入れてくれるようならば、部屋に入ると同時に人の姿に転じ、
もし寝ているようなら、獣の鼻先をそっと夫の頬に押し付けて、
ただいまと、優しいコエで*囁いた*]
─どこか─
……………。
「我はヘラクレス、ゼウスの…」
……………………。
「ケルベロスよ、貴様がなぜ……」
…………はぁ。
「再び捉えてハデスの宮殿に……」
なぁんで、クソガキ探しに出てキチ〇イに当たるかねぇ。
[そう呟いて、深い溜め息ひとつ。]
はぁ……見つけちまったもんはしょうがねぇか。
[そう呟くと、今だ訳の分からぬ事を喚くダーヴィッドに歩み寄ると]
……うおりゃ!!
「はうん。」
[ダーヴィッドの後頭部に一撃を入れ気絶させると]
全く世話のやける。
[ぶちぶち文句を言いながら、気絶したダーヴィッドを引きずり、宿屋へと戻って行った**。]
そういえば……
ねぇリヒト、10年前…だっけ。貴方と私が14か5の頃、
[ヴァイスは18ねと、少し横道を逸れたりしながら続ける]
ゲルダちゃんの弟さんの事って、覚えてる?
どんな子だっけ、私か貴方が……食べたんだっけ?
[ふと眠る間際に
詰め所に行った時に語られた彼女の過去。
人狼の仕業だと彼女は言っていたが…
あの頃は狩りに夢中で、獲物の事はよく覚えていなかった為
自分の記憶を呼び起こすように*問いかけた。*]
―回想―
[ゼルギウスの眠りは、
身を案じてくれた者達が思うほど深くはなかった。
夢現、交わされる会話がなんとなく判るほどの浅い眠り。
にもかかわらず、揺さぶられようが、運ばれようが、微動だにできないのは本人が思うより身体に負担がきていたから。
細工師として一番忙しい時期で、疲労も蓄積していたのだろう。
耐えていたのは、人狼騒ぎの件で不安を見せる妻に
これ以上の不安を与えたくなかった為。
――……それが逆効果であったのは、今の現状が語る。]
…、……―――。
[浅い眠りに、動かぬ身体。
その感覚は、生きる屍のようだった少年時代をゼルギウスに思い起こさせる。
光の世界から聞こえる声を、闇の世界から夢現に聴いていた。
―――……そこに行けるのなら、この身体が行くことを阻むなら
いっそ死んでしまって、魂だけでも寄り添えたら佳いのに。
そう、強く願っていた過去の想いも、夢の狭間に思い出した。]
─回想/ →自宅─
[結局皆固まった状態で自宅へと送られて。
ゲルダが隣に来たことには少し戸惑ったが、厭うことはしなかった。
途中もう一人自分を探しに出た人物が居ることを知れば、申し訳ない気持ちになり。
自宅へ着き、別れる時にその人物にもよろしく伝えるよう4人に頼んだ]
本当に、迷惑を掛けた。
……ありがとう。
[そう言葉を紡ぎ、送ってくれた4人とは別れる。
去り行く姿を見送ってから、ミハエルは自宅へと入った]
[執事やメイドにも自分が疑われていることは知れていて。
顔を見せると微妙な反応をされる。
眉根を寄せるのではなく、眉尻が下がった。
特に何も言わぬまま食事の準備をさせてそれを食べ。
その日は何もせずベッドへと入った]
─回想・了─
─翌朝─
[起きて身嗜みを整えた後。
食事も摂らず執事達にも何も言わず、一人家を出た。
向かう先は自衛団の詰め所。
改めて自衛団長から話を聞こうと考えた]
ええと……確かこっち、だよね。
[道を確認しながら歩き続け。
ようやく詰め所を発見した時だった]
……?
[不意に視界に入った人の脚。
それは詰め所へ続く道から少し逸れた道の先にあり。
誰かが倒れていると思い、足を向けた]
おい、大丈夫……。
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