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目撃者なんて居るわけねぇよ。
なんたってオレが下調べした道だからな。
[少女の仕事は煙突掃除。
こそこそと裏でかぎまわる、鼠。]
ちょっとオレ、上から見てくるよ!
[それからどれくらい歩いただろうか。
始めたのはまだ朝だった筈なのに、随分時間が経った気もするし、そうでもない気もする。
お腹がくるくると鳴ったのを誤魔化すように、少女はぴょいっと道端に置かれた木箱に飛び乗り。
油か魔法のランプが吊るされた背の高い街灯をよじ登ると屋根へと上がった。
煙突掃除を生業とする彼女に取って、簡単なコト。]
[まるで軽い口調だったのに、返ってきたのは低い声。
そのときは、そうね、と相槌を打つばかりだった]
[それから暫く歩いて、少女は言うなり街灯を登っていく。いつの間にか中天に昇った陽が隠れるくらいの高さに辿り着き、小柄な姿は屋根の上。]
こぉら、危ないじゃない!
[彼女の生業を知っていても、そんな言葉がついて出る。弟を見ているから、条件反射のようなものだった]
でも見えないトコも見なきゃ、だろ?
オレは大丈夫、煙突掃除人だぜ?!
[へっへ、と鼻の下を擦ってエルザに笑って見せ
少女は洗濯物を下げる紐に手をかけ、更に上へと上って行く。]
[表通りを回りながら、目撃情報を集める
だがしかし、犯人もさるもので、芳しい結果は得られない
必死そうに聞き回るカヤを後ろから見つつ]
……やっぱり、必死になるよね
うん、家族っていいものだ
[優しそうな笑みを浮かべてそう呟く
そして、エルザの言葉には、苦笑いを浮かべ]
うん、まったくだよ
一人旅をしていると、特にそれが実感できちゃって
こう見えても、色々と苦労してるんですよ
……だから、弟くんには必要以上に噛みついちゃった
ごめんなさい、てあとで伝えといてくれると嬉しいな
[たははと笑いつつ、エルザにそう頼んでおく]
いいと思うけどなー、女性扱い。
……あーあ、アタシなんて性別以前に子供扱いだもん。
[エルザに羨望の眼差しを送り、また道行く人に聞き込み]
え、上?
[器用に屋根へと上がるカヤを見上げ、感嘆の息]
性別や立場なんて関係なく、
“その人だから”言う人も、いるんだけどね――
[そう独りごちるように言ったのは、いつのことか。
不意に吹き抜ける風に、縛った髪が煽られ押さえながら頭上を仰ぐ。閃く白布に眉根が寄った]
―裏通り―
[勝手知ったる様子で踏み込む裏通り。
ベル、という、ここでだけ通じる名で呼びかけてくる知り合い相手に、団長の事を問い歩くものの]
……やっぱり、か。
[手応えらしきものは得られずに、嘆息する]
よっぽど……って事、かな。
[零れた呟き。
行けるぎりぎり近くまで行ってもなんら情報を得られない、という事は、よほど周到に事がなされたか、強い『力』がかけられているか。
もしくは両方。
周囲から感じる視線の険しさも、それを裏付けているような気がした]
だ、ね。帰らせてもらえる内に帰らないと、ここらは怖いから。
[ハンスの提案に、軽い口調で同意する]
……俺もあんまり、ここでいざこざ起こしたくないし。
[そこらはわりと本音で。戻ろうか、と動き出そうとした時]
「……ベル」
[先ほどまで話を聞いていた男が、低く呼びかけてきた]
ん……なに?
「……あんまり、裏の事に深入りするな。
お前はあいつの一番のダチだったし、いいヤツだとは思ってるけどよ。
お前はやっぱり、表の住人なんだから、な?」
[諭すような言葉に、一瞬浮かんだのはどこか寂しげな表情。
でも、それはすぐに*消え失せて*]
……進展ないわね。
[半ば予想はついていたといえ、有力な目撃情報は得られず]
ほんと、どこ行っちゃったのよ。カヤ残して。
見つけたら文句の一つも言わないと気が済まないわ。ぜーったいに見つけ出してやるんだから。
あ、すみませーん、ちょっと聞きたいことがあるんですけどー。
[自衛団長の行方が知れないとの噂が街中に広まるのは、そう遠くない話だろう]
[いなくなった者を探すうち、
いなくなったという話は広まっていく。
上げていた視線を落として、唇に指を添えた]
「おい、何をしているんだ」
[女性ばかりの人探し集団はよく目立つ。
声をかけてきたのは、自衛団員の男だった]
─広場・噴水傍─
[どうするかを決めかねて]
[別の考え方からその判断をしてみるかと思考を巡らす]
[己が術について知る者は今のところ居ない]
[明かすべきことでも無いし、明かしたところで信じてもらえるかと言えば微妙]
[ただ、結果的に調べたことは後で伝えなければならぬのだから]
[今情報を教えることになる対象に伝えて信じてもらいやすい人物を選ぶの適切か]
[尤も、結果如何では逆にこちらが疑われる可能性もあるのだが]
……となると、選択肢は一つしかねぇな。
[己が行動は決まった]
[どんな結果が出ようが、己のやることは一つ]
[胸ポケットから予め作っておいた手巻きタバコを取り出し]
[馴染んでいるかのチェックを始めた]
[女達が口を開く前に、男は言う。
素人は余計なことをするな。
我々の担当だ。
噂を広めて不安を煽るつもりか。
頭を失い冷静さを欠いているのは、よく見て取れた。
楽師たる女は反論はせず、黙して団員を*見返した*]
ふぅん。
自警団、結構ごちゃってんなぁ。
こりゃやりやすそうだ。
[屋根の上から見下ろして、マフラーの中でにんまりと笑みを浮かべた。]
…よ、…
[マフラーに口元を隠したまま、エルザの前の男を上から見詰める。
するするとサルのように壁や柱を伝って、ぴょい、と
男とエルザの間に立つように、飛び降りた。]
不安を煽る心算なんてねぇよ。
あんたらはそれを解消するのが仕事だろーが!
[男は、団長と共に住む少女を知ってか知らずか。
キッと、少女を睨み見下ろしてくるのを、
少女も負けじと男を睨み上げる。]
─広場・噴水傍─
[馴染んでいるのを確認すると、それを使おうと口元の手巻きタバコに手を伸ばす]
[摘まんだところで離れた場所から上がる声に動きを止めた]
……アーベル。
自衛団の連中、頭に血が昇って何しでかすか分からん。
気をつけろ。
[それは何かあれば風に乗せろと言った青年へ向けた言葉]
[それを伝えようと思ったのは、上がった声の先に居る人物達を見つけたため]
[使おうと思っていた手巻きタバコを胸ポケットへと戻し]
[やおら立ち上がると声のする方へと足を向けた]
―表通り/民家近く―
お前らがちゃんとしてれば爺っちゃんは帰って来たんだ!
何かあったらお前らのせいだ!
[少女は自警団の男に飛び掛る。
不意を突かれて驚いた自警団の男に掴みかかり
手を振り回して引っ掻き噛み付いた。]
……こちら側の意図はどうあれ、
噂が広まれば、そうなってしまう可能性はありますね。
無為に不安を蔓延させる真似になってしまったことは、謝罪します。
ですが、親しいものがいなくなったと知れば、
いてもたってもいられなくなるのは、ご承知頂きたいかと。
[憤りを見せない、静かな口調でエリザベートは言う]
なにぶん、自衛団員の方でも、長く解決出来ていない事件ですから。
[ただ、付け加えた一言は余計なものだったろう。
流石にすぐさま手を上げるようなことはしないが、男は歯軋りする。
カヤが飛び掛ったのは、その直後。]
カヤちゃん、止めなさい。
[驚きに目を見開いたものの、平静を保った口調で言い、
彼女の後ろから肩辺りへと手を伸ばす。
払われようと、掴もうとする意思は強い。]
[小柄な身体は、エルザの手が肩を掴めば簡単に剥がれる。
自警団の男が剥がそうとしていたせいもあるだろうけれど。
後ろに引かれ、地面へと尻餅をついた。]
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