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…まさか、あいつには殺す理由がない。もしそうなら、何故俺じゃない?
[いつかの、こちらに向けられた目を思い出す。
険をもった、睨むような瞳]
……何故、俺じゃない?
[そうすれば手に入れられたかもしれないのに?
ふと、思う、自分が子供の頃に思った事
手に入れられないものは、壊してしまえば良い
子供特有の我儘]
………まさか。
[あの無邪気な様子からは想像がつかなくて、でも
無邪気ゆえの残酷さは、自分も知っている事]
……っ
[笑顔に胸が痛くなる。自分はこの人にそう呼んでもらえるようなお嬢様なんかじゃない。
ただの狡い子供で。
『私が来たばかりに、あの人を傷つけた』
まだ手に残る感触。恐怖の記憶。
あれは、自分に対する憎しみ。自分が来なければ、アーヴァインが襲われることなどなかったのではないか。
幸せそうな肖像画の女性と、よく似た青年が目蓋に浮かぶ。
ぽろりと、少女の瞳から涙がこぼれた。]
[触れられなかった事に、ほっと息を吐いて、力を抜く。
肩から力が抜けたためか、肌蹴た襟元から胸の上の異質な紅い色彩が覗いているが、それには気づかずに]
……霊視の力からは……逃げられない……から。
ひとがしなないように、するしかない……けど。
それこそ、どうしていいか、わかんないよ……。
[何とか少年の泊まる部屋に運び込み]
[寝台の上に寝かせる]
[最早習慣となった様に][上掛けを書け]
[恐々とした手つきで][着衣を緩めてやり]
[寝台の端に腰掛け]
[意識を喪った儘の少年を見守る]
まさか…いや、考えすぎだ、きっと。
[そこまで考えて、気付く]
そういえば、コーネリアスは…?
彼を処刑する、と、人狼だと言っていた。
……彼がもしそうなら、終わるんだろうか…?
ローズ、教えてくれ…君を傷つけたのは…誰だ…?
[そういって手を組み額を伏せる。
じっと、考え込むように]
[赤毛の少女の頬を伝うものが、最初何だか分からなかった。
きらりと僅かな灯りに反射し落ちていく…雫]
…え、あの。如何、されました?
何か失礼なことを申し上げましたか…?
[少女の涙を流す理由が彼女には分からなくて、ただただ戸惑う]
……止めればいいだろう。人が、死ぬ前に。
[ 黒曜石の双瞳を伏せながら呟いた台詞は酷く単純な事。]
そんな簡単に済めば苦労しない、ってのは解ってるけどな。
何もしないよりはずっとマシだ。
[ 外方を向け不機嫌そうな顔をした青年は、其の色彩には未だ気付かない。]
止める……。
[それは当たり前の事……否、当たり前すぎて。
逆に容易く無い事なのだけど]
……ボク……は……。
[言いかけた言葉は。
何故か。
途中で途切れ]
……なんで…………ローズマリーさんだったんだろ、ね。
[代わりにこぼれたのは、こんな呟き]
誰かの為に死んでやる気も、未だお前を殺してやる気もないが。
[ あくまでも己は己の為だけに。他に大切な物等在りはしないのだから。]
[ネリーを困らせているのが分ったけれど、何も答えられなかった。
自分の狡さを曝け出すにはまだ怖くて。
ただ、首を降って、彼女の所為じゃないのだと示す。]
ごめんなさい。
なんでもないの。
私なんかにそう言ってくれて、ありがとう。
[この人を疑わないで済んで良かったと、心から思った。]
[呟いた後でハッとして顔を上げる]
そんな事、ローズは望んじゃいないよな…?
[苦笑して
自分の姿に今更気付く]
これじゃ俺が殺したみたいだよなぁ……
[ローズの血に塗れた己の姿。
だけど、着替える気にはなれなくて
そのまま、また深く黙りこむ]
[ 途切れた言葉を問う前に零れた疑問の呟きに其処に迄考えが至らなかったと云うように口許に手を当てる。]
……さあ、な。
コーネリアス……さんが人狼、だったのなら矢張り、アーヴァインさんの縁者だったから……?
[ 顔を上げれば、目に入るのは衣服の合間に覗く紅。黒の瞳が緩やかに瞬かれ、]
其れ……?
そう、ですか?
何かありましたら、遠慮なく仰ってくださいね?
[心配げに少女の目線に屈んで、右手の人差し指で涙の後を拭うように触れる。
手袋には未だあの鍵の錆が付着したままだったから、その臭いが少女の鼻先を掠めたかもしれない]
―広間―
[処刑後、報告を終えてから傷の手当てやウェンディとのチェスやらで時間を潰し。
ようやく、この時間になって広間にやってきた。]
……ナサニエルさん。
遺体の発見状況を詳しくお聞きしたいのですが。
[ナサニエルに近付き、話を聞く態勢に。]
……ん……そう、なのかな……。
[それだけで、殺せてしまうのかと。
ふと考えてしまったのは。
銀色の髪の人に対して抱いていた親しみ故か。
しかし、それ以上の思考は、投げられた疑問の声のために、続かず]
それ……って……?
[言われて初めて、気づく。
力の印と呼ばれる、真紅の百合が、人目に触れていたと]
あ……。
[思いっきり感じる、やらかした、という思いに急かされつつ、襟元をかき合わせてそれを隠す]
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