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[発する言葉は抱く熱とは違い冷徹。
しかしそれが人狼か否かを確かめるものではなく、八つ当たりめいていたと気付いたものはいたか]
――…?
[少女の返答に、意外そうに瞬く眼。
手から離れ、崩れ落ちるゼルギウスと、*交互に見やった*]
でもさっきみたいに、人狼以外には効かない、というところを見せてれば…。
…いえ、あなたが自由に斬ったり斬らなかったりできるんじゃないか、って疑われただけでしょうね…。
…今は、そうじゃない、ということが証明できますか?
あなたは、イヴァンさんの友達で、彼の死の原因となった私のことが嫌い。
検査にかこつけて、わたしを殺したいだけかも…。
悪いですけど、信用できないです。
[言いながら、ナターリエの手の甲、そして肘に手を添える。]
[返ってきた言葉]
[それはゼルギウスの今までの行動指針を否定するもの]
ち、がう……ウェインツェル、には、なって、くれない…。
[真紅に淀んだ鈍い光を宿し]
[ぶつぶつと小声で呟き続ける]
(どちらも俺の手の中に収まってくれない)
(俺の護りたいものを否定した)
(だったら)
(もう、イラナイ──)
[蝕まれた精神は戻らない]
[ふつふつと沸き上がる衝動]
[未だ動く気配は見せないが、それは静かにゼルギウスを飲み込んで*行った*]
[視界の端でゼルギウスさんが崩れ落ち、うわごとのように何か呟いている。]
[悲しい。彼を傷つけてしまった。]
[ううん、来るべきときが来ただけなのかも。結局のところ、わたしは。]
[わたしはそこで彼について考えるのをやめて、最後の賭けに備える。]
…そうか。なら今からもう一度、誰かで証明してやろう。
[そして肘に触れてきたベアトリーチェに、優しい微笑みを浮かべて。]
…ところでベアトリーチェ。
私を信じないと否定するなら、毛玉の事を否定すべきだったな。
何故あれが人狼の毛だと思う?
ひょっとしたら、この騒動が始まる前、私が用意した偽物かもしれないのに。
試してみるさ。
お前の身を持ってな。
[彼女の覚悟と刃の煌めき。
果たしてどちらか早かったか―――**]
[遅れて入ってきたエーリッヒに、少しの間翠玉を向ける]
ナターリエ。自分が守護者だって。
あれは、人狼だけを切れるって。
[抑揚に乏しい声で、これまで目の前で語られていた内容を告げた。
表情は常の通り。さしたる動揺は無い]
薬師様。
[ぽつ、と、膝をついたゼルギウスの名をただ呼ぶ]
…。
[言うべき言葉があるとして。
それはおそらく自分のものでないと思った。
ふっと首を横に振り、向けた翠玉をベアトリーチェとナターリエの方向へ。
傍からは、平行線のようにも見えるが、果たして。
エプロンのポケットに手を入れて、来るだろう一瞬を待つ]
[動く。そう思った瞬間に、先手を取った。]
[ナターリエの肘間接に外向きの、手首に内向きの力をかける。]
[梃子のように腕を曲げさせ、手から現れている鎌を、ナターリエ自身の胸に突き立てる。]
[どうせ彼女には効かない。けれど。]
[鎌の下、周囲からの死角で、手首に添えていた手は手刀の形に開き、爪を立てている。]
[この爪は、鎌に関係なく彼女の胸に刺さる。すぐに引き抜けば、傷口もそんなに違わない。]
[傍目には、ナターリエ自身が自分の鎌に貫かれたように見える筈だ。]
[人狼以外にも鎌は刺さる、そういうことにできれば。]
[わたしはそのとき、その鎌が元々何でも斬れるものとは知らなかった。]
[一方は単に重ねているのみだった。
ならばもう一方は利用しているものと考えていた。
告発された少女は人狼であれど、彼は人間かもしれないと、言葉を交わすうちに見えてきたが故に。
しかし、先の反応は。]
[ヨハナがベアトリーチェを庇ったという話を思い出す。
あれは、人間であるが故だろうか。
人狼は他者を庇うのだろうか。]
[二つの考えが巡り、疑問が首を擡げる。
ゼルギウスの変化には気づかぬまま、彼に目を落とした。
*事が起こるより、少し前のこと*]
[全て上手くいって、鎌が誰にでも効く、ナターリエはわたしを騙そうとした、という風に落ち着いたとしても。]
[この手で、人前で彼女を殺めたわたしは、疑われると思う。]
[もしかしたら、明日を見ることはできないかも。]
[それでも、せめてこの女だけは連れて行かなくては。]
ナターリエが守護者。
人狼だけを、か。
[ゲルダの言葉に確信を得て、翠玉を見つめ返し、小さく頷く。
不可思議の力ならばそんなこともあるのだろうか。
信じきることは出来なかったけれど、今は混乱を増やすだけだと口にすることはせず]
[そして、その瞬間は*来た*]
[子供はナターリエが守護者であることを疑ってはいなかった。イヴァンがライヒアルトによって人と判じられ、そのライヒアルトが殺された今、彼女の言葉は、子供の知る「事実」に完全に符合している]
[だから、彼女がベアトリーチェに刃を揮ったことも、当然と受け止めた。青き炎もそれを肯定するように、子供の胸をじわりと心地良い震えで満たす]
[ゼルギウスの恐慌は、子供には元より関係のないものだった。彼が朱花に手をかけない限り。そして彼が人狼であると判ずることができない限り]
[だから、子供は守護者と人狼の対決を(そう確信して)じっと見つめ続けていた。決意をもって刃を向けたナターリエ、そして、思わぬ反撃に出たベアトリーチェの姿も]
そんなに、死にたくないの。
[子供は、驚くでもなく、ぽつりと呟いた]
………死ななければ、終わらないのに。
[茶色いガラス玉の瞳が、少女の姿の人狼を映して瞬く**]
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