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状況が状況だけに、決意が固いのは構わんが。
[きつく寄る、眉。
過ぎるのは、物置でゲルダに言われた事]
……家主殿。
俺のよに、過去に追われているわけでもないんだろ?
なら、思いつめるのは、ほどほどにしておけ。
[家主の過去の事は知らぬ身。
故に、その言葉はためらいなく紡がれた]
……まあ、荒事に望んで突っ込んでいくようには、見えんが。
[マテウス任せ、という言葉にさらりと言って。
厨房に、という言葉には、そうか、とだけ返した。
言葉を紡ぐ表情には、気づいていても、それには触れずに。
同時、思うのは。
己が存在の、この場での異端さ、冷静さ。
こうしなければ、立っていられない。
ただ、それだけの事なのだけれど]
―一階廊下―
どうして…さぁ、どうしてだろうな。
人狼が爺様を邪魔だと思ったか。
それとも爺様が何か勘付いてたか。
……信じたくない、が。
少なくとも、自衛団の奴等はそう思ってる。
ここに居る何人かも、そう思っているみたいだ。
[目を開けると、アーベルの声や表情、それらが強い動揺を表しているのが映る。]
…先生殿は、昨日から何か気づかなかったか?
物音や何か…。
[手がかりを求めるよう、アーベルに問いかける。]
――貴女が人狼だから。
そのような事を言うのですか。
そのような事を言って、…私を篭絡しようとでも。
[絞り出すような声には、色濃い猜疑]
[わたしにも、ちゃんと分かってた。他に方法はない、分かってたよ。]
[でも、何か言い募ろうとした。せずにいられなかった。]
人狼、なんて通り一遍な呼び方しないで。
ここにいるのは、皆それぞれ名前のある人なんだよ、それを…
[言葉は末尾がしぼんでいく。分かってるんだ、そうするしかないって。]
って、何か大丈夫じゃないさそうだよ?
…!!
[わたしは言葉をなくした。]
そう、そうなんだよね。
そう思っちゃうような、状況なんだよね…。
…ごめんなさい。
[過去、の言葉にピクリと身を強張らせた。
右手を白くなるほど握り込む]
ああ。俺は人狼と遭ったことは、ないな。
ただそう、少しばかり聞き齧った事があるだけだ。
お前から聞いたの以外にも。
だからお前には殺させたくない。
…どちらであっても苦しむだろうから。
[それをしてきて、狂っていった人。
あの場に行ったのが自分なら良かったと]
やれない、っていう。
ゲルダにもさせたくはないけれどね…。
[翠の中の影は揺れて、揺れて揺れて――]
[広間から続く厨房への扉]
[それを潜って厨房へと足を踏み入れた]
[先に居たウェンデルとベアトリーチェ]
[何だか思いつめた様子の二人に気付き]
…二人とも、どうした?
[流しに近付きながら声をかける]
……。
[老婆はいつものようにゆっくりと広間に入ってきて、もはや指定席とも言うべき、隅のイスへと座り込んだ]
どっこいせ、と。
[その目はいつも通り穏やかなもので。
まるで、こんな事件が起きているとは思いもしないようなたたずまいだ。
ただ、その広間を全て見渡す目は本当は何を見ているか。
目の奥にある深遠の闇は何も語らなかった]
[どちらであっても、という指摘。
浮かぶのは、苦笑]
……楽ではないのは、否定しない。
[黎明にも感じた痛み。
痛みの理由は、わかっているけれど。
痛みを感じずに済む方法も知っているけれど。
もう、それを選びたくはなかったから]
とはいえ、そんなぐらついたザマで肩代わりする、といわれても、返って落ち着かんぞ。
……恐らくは、彼女も。
[家主の事を案じていた様子。
それを思えば、その程度の予測はできた]
[腕を抑えるウェンデル]
[厨房を飛び出したベアトリーチェ]
[どちらも気にかけている人物]
[どちらかを選ぶことは出来ず]
[おろりと視線が惑う]
[結果、その場で立ち止まることになるのだが]
!
…ヨハナ婆。
[声が出るまで気付かなかった。
意識は束の間、過去へと飛んでいたから]
もう聞きました?
[老女の瞳は奥深く。何も読み取ることができない]
[彷徨う視線を追って、金の瞳が動いた]
…迷うようでは、何も為せませんよ。
[それは相手だけではなく。
自らに言い聞かせるような、台詞]
……ん?
[厨房の、只ならぬ気配。
駆けて行った足音に、眉を寄せる。
過ぎる思い。
同じになるな、と。
届かぬのは、わかっているけれど]
……。
[息を深く吸い込み、大きく吐き出す。
影が翠に広がり、その分揺れは見えなくなる]
覚悟が足りてないか、俺も。
だが、それでもだ。
[頑迷に言い切る。
その顔は、最初の犠牲者となった人物と良く似て見えただろうか]
おやおや。
エーリッヒ君。
[まるで始めて気付いたかのような面持ちを装って、老婆は、エーリッヒへと顔を向けた]
ギュンター坊やのことかい?
ええ、ええ。聞いておりますよ。
坊やには気の毒なことになってしまったねえ。
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