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[頬を拭う手がやさしくて、ますます涙が込み上げた。
慌てて鼻を啜ると、涙の塩辛さに混じって金属の匂い。
不思議に思ってみれば、白い手袋には錆のあと。
それが何を意味するのか、少女にはわからず首をかしげる。]
[不意に掛けられた声にびくっ、と身を震わせ。
声の主を知れば安心して。
だけど訊かれた言葉には少し悩みながら、ぽつぽつと]
発見状況、ですか?
ローズが倒れていたのは外の…吊り橋があったそばの…木の下でした。
…彼女の様子も言わなきゃいけませんか?
[思い出す、あの姿は、できれば誰にも知られたくなくて]
[『悪夢は終わらない』。
この事だったのだろうか。]
……そうだ。私が知りうる、ローズさんに関する情報をいくつかお教えしましょう。
ですから、遺体の損壊状況も詳しくお教えください。
今は、一つでも多くの情報が欲しい。
[ルーサーの言葉に頷く。
本当は思い出したくなかった、けど]
…まず、顔には一切傷はありませんでした。
だけど…胸の、ちょうど心臓にあたる場所に木の枝が楔のように。
そして……腹が食い破られた状態でした…周りに…散らばって…
でも、それだけでした。
外の部分には傷一つ無い…
俺の部屋に居ますよ…ご覧になりますか?
今回の人狼は酷く猟奇的な所業を行いました。
私は最初、それを『人狼の本能』で片付けてしまう所でした。
しかし、実際は違う。
『置かれたパーツの場所』ではなく、『パーツが置かれなかった場所、その理由』について考えれば容易に謎は解けた。
つまり、今回も。
遺体の状況を総合すれば、何らかの情報が見えてくる。
そう言う事ですよ、ナサニエルさん。
[ぽん、と。ナサニエルの肩を叩く。]
…さ、今日はもうお休みになってください。
連日お疲れでしょうし、ね。
[立ち上がり、後頭部の辺りに手を当てる。少女の不思議そうな様子には気付かなかった。
そのまま部屋へと促して、自室へと*入った*]
―廊下→自室―
[ 其の花から視線を逸らす様にして再び顔を俯かせる。前髪が顔を隠し其の表情は見えまいが薄い口唇は固く結ばれ、躰は微かに震えを持つか。]
ええ。見ましょう。案内してください。
……書置きを残しておかないと、ね。
流石に、肉料理を食べる気にはなれませんから。
[こんな時でさえ、少々冗談めかして。
さらさらと、簡潔に一文を残す。
『肉、魚料理はいらない。野菜、果物類のみで。 ルーサー』]
さあ、案内してください。ナサニエルさん。
遺体の、状況…?
そういえば、アーヴァインとは違って損傷が少ない気がする。
あの時は狂気さえ感じたけれど、今回は…
何か狙いがあっての事なんだろうか?
[そうしてふと先ほどの疑問を思い出し訊ねる]
……そういえば、コーネリアスは?
彼は……
――広間――
[少女は、処刑後も片時も離れることなくルーサーの傍で時を刻む。
傷付けられた皮膚の手当てを見守り、約束のチェスに興じて――ほんの僅かに幸せな一時を過ごし。
今は、少女がこの屋敷に訪れた時、人の良さそうな笑顔を向けてくれた蒼髪の青年の話を、少し離れた場所から聞いている――]
やっぱり犠牲者は――出てしまったのね…。
[少女は途切れ途切れに聞こえる会話の端から、大人たちの会話の内容を推測する。]
[するり――]
[頬に掛かる髪が思い出させる――]
[カタリ――]
[かつての父と母の変わり果てた姿に。微かに眩暈を起し、少女は壁にもたれ掛かった――]
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