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―朝―
[自分のベッドの上で起き上がる。バトンを片手に、もう片手に握るものはなく。
洋服を脱ぎ捨てて、新しい服を選ぶ。
スカートも、パンツも、どちらもあるから悩み。]
ま、これでいっかー
[選んだのは白の、小さな花咲くチュニックワンピース。
腰のあたりをリボンで縛って、レギンスを履いて]
……ごはんどーしよ。あと洗濯も。
[真剣な顔で悩む]
[小さっぱりと身なりを整えて、フユは給湯室へ向かった。
冷蔵庫に誰かの作り置きの麦茶が入って居て、出過ぎのそれは少し苦そうだったがコップに注いで、それを持って食堂へ行った。
フユはひとり、テーブルについて麦茶を飲む。
苦いが、冷たかった。]
うー……
[恥ずかしそうにおなかをおさえて]
フユせんぱい笑うとかひどいですよーっ!
食べます
[でもしっかり頷く。とことこと、彼女の方へ]
だって。
あんまり凄い音したから。
[尚もくすくすと笑いながら、マイコを伴って調理場へ。
少し探すと素麺があった。
鍋に水を張ってコンロに乗せながら]
これで良い?
って言っても、あんまり色々作れないけど。
……その服どうしたの。
アンタがそんな格好してるの見たことない
ひっどい、そこまで笑わなくってもいいじゃないですかー!
[ぷんぷんと怒った顔をして]
うん。食べたいです。
作ってくれるんですかー?
[ものすごく嬉しそうだ。多分しっぽがあったらぶんぶんゆれている。]
あ、服。お義母さんがずっと前に送ってくれててー
なんとなくきてみよっかなーって。
かわいいですかー?
[にっこーっと笑って一度ターン]
[昨夜は、一度寮に戻って、食事を摂った。食べながら、その夕食がマコトの用意したものだったことを思い出し、苦い思いに囚われる。しかし、それも一瞬のこと、一度部屋に戻って仮眠を取ると、早朝に寮を抜け出し、フユに弾き飛ばされた矢を探した]
[マイコが回ると、ワンピースの裾がふわりと広がって小さな花が彼女の周りで踊った。]
うん。
[フユは涌いたお湯に素麺を入れ、暫くしてから水にあげる。
二つの小さな器に盛りつけ、盆に乗せた。
手際だけは良かったが、ただ盛られただけの素麺は見た目がどうも良くは無かった。]
何でいままでそういうの着なかったの?
[盆を持ち、食堂の方へ。]
[ぴたっと止まってポーズ。
そういうのはさすがに慣れたもので。
手際よい動作に、わぁっと感嘆の声をあげる]
え、なんでって。
なんでだったかなぁ
[ちょっと考えて]
オンナノコオンナノコしたくなかったのかもしれませんねー
─昨夜─
[どこかふらつく足取りで寮へと戻り、食堂に置き去りにした荷物を抱え上げる。
食事を取る気には、なれなかった。
喉の奥の方にまだ、血の感触が残っているような気がして。
一度部屋に戻り、着替えを持って、シャワーを浴びに行く。
紅に染まった胴着の下、受けた傷はほぼ癒えていた]
…………。
[僅かな傷跡をつい、と撫でて、絡みついた汗を洗い落として。
部屋に戻った後は、諸々の疲れからか、夢すら見ない眠りに落ちた]
[板についたポージングに頬笑んだ。]
……女の子らしくしてみる気になったんだ。
誰に見せんの。
[少し笑ってからフユは食堂の机に、素麺とつゆの器を並べて座った。一口食べたら茹で過ぎだった。]
―弓道場―
[戸に手をかけて、昨夜から鍵が開けっぱなしだったことに気付くと、苦笑が唇に浮かぶ。尤も、あの状況で鍵をきちんとかけて出ていたら、それはそれで自分に呆れたかもしれなかった]
………
[弓道場に入り、補修道具を引っ張り出す。夜明けの静寂の中、竹を削り矢羽根を付け替える僅かな作業の音が、やけに大きく響くように思えた]
見せる人はもういないですけどねー
我慢しなくていいかなーって思っただけです
[あはっと笑って、自分もその隣に]
いただきまーすっ
[少しゆですぎでやわらかくなりすぎた麺を口にする。
彼が死んでから、そう認識してから、味覚などとうにおかしくなっていた]
[翌朝。光を感じて目を覚まし、着替えようとして。
……選んだのは、何故か剣道着。
昨日のものは自分の血が染み付いて黒く変色していたから、まだ下ろしていない、新しい物に袖を通す]
……ん、よし。
[小さく、呟く。
恐らくは、自己暗示なのだろうが、気が引き締まるような気がした。
そうして、竹刀ではなく、木刀を肩に担いで、足早に寮を出る。
気配は感じていた、けれど。
それよりも、気にかかる事があったから、真っ直ぐに、桜の元へ]
見せたらおわっちゃうような気がしてまして。
ゆめってはかないじゃないですか
[にっこり笑って、素麺を食べる。
量はそこまで多くは無く、皿の上で白が減る]
−校内・2階廊下−
[食事を済ませ、最低限の身支度を整えて
部屋を出ると、2階の廊下へと向かった。
昨夜と打って変わり、校舎の中は静かだった。
床を彩る赤は、予想よりも少なかった。
逝った者のは桜に吸われ、憑魔のものは消え失せ、
残されたのは生ける者の血だけ故とは知らないが。
割れた窓ガラス。散らばる破片。
怪我をしないよう、仔犬を頭に乗せた。
誰の物か、弾き飛ばされた竹刀、数本の矢。
更に奥に行けば、弓が落ちているのも見えたろう。
存外、冷静に観察している自分がいて、厭になった]
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