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[自分の名前の後につけられた『様』にも違和感を覚え、ヘンリエッタの視線が彷徨う。
不安そうな幼い子供の表情が一瞬だけ覗き、すぐに隠れた。]
ねえ、ネリー、早速お願いがあるんだけど。
[そこで一端困ったように、照れたように笑った。]
私の寝室はどこなのかな?
お父さんには空いている場所を好きに使うように言われたのだけど、私にはわからないから……。
[ ポケットから取り出したシガレットを口に銜えれば今度は落とす事もなく、片手で真鍮製のジッポライターの蓋を開けてフリントホイールを回す。小さな音を立てて火が点り、其れを煙草へと移した。ややして、風に揺られながら白が辺りに漂い始め闇を塗り替えるも、其れも直ぐに消え失せ煙草特有の匂いだけが残る。]
…………ふう。
[ 仰いだ天には煌めく月。
溜息交じりに煙を吐き出せば、漸く一息ついたという気がした。]
俺の父も、“そう”だったらしい。
[ 目を眇めながら答える。闇の中に一人佇む彼に、普段の人当たりの好い雰囲気は何処にも無い。何もかも如何でもよさそうな、気怠けな表情ばかりが在る。]
……喰らったのか?
[ナサニエルにつられて手を振り返し。
ローズマリーと一緒にいるという事が彼に勇気を与えたのか、グラスを弄ぶコーネリアスに近づいて声を掛ける。]
あの…コーネリアスさん。
昨夜は…幽霊と間違えちゃってごめんなさい…。
[首は痛いので、身体ごと折り曲げるように御辞儀する。
氷だけが残ったグラスでは、何を飲んでいたかなんて想像が付かなかったのは、幸か不幸か。]
ああ、空いている部屋なら2階に…
ご案内致しましょうか?
[欠伸をする様を見て、小さく笑いながら。
どの程度の距離を少女が歩いて来たのかは分からないが、何しろ来たばかりだ。疲れていても無理はない]
…全く、姉が聞いたらどう思うのでしょうね…。
他所に子を作っているわ、再婚なのを隠しているわ、
…また、新しい女に手をつけているわ…。
[手を振り返すトビーににやっと笑い、彼がコーネリアスに近付き謝罪の言葉を言うのを聞いて]
あ、真相分かったみてーだなぁ。
[くすくすと笑うも、今のコーネリアスにそういう事を言っても大丈夫かとふと不安に]
[ ふいと視線を下ろせば、彼岸には黒に染まる深き森。否、向こうからすれば此方が彼岸か。まるで現世から隔離されたかの如き幽玄なる此の館の在る、此方側こそが。だからこそ、自分は此処に惹かれるのだろうが。]
『然しあれだけ人が多くちゃな……』
[ 安らぐ暇も何も無かった。厄介事は御免だと再び呟いて、生まれては直ぐさま薄れゆく白を見送りながら、*目を閉じた。*]
[コーネリアスの呟きも聞こえる。
……新しい女、ではないから違うだろうとは思うけれど、少し耳に痛い言葉。
それにしても子供とは何の話だろう。]
聞いた覚えもないけれど……
[言葉を口の中で転がして]
ん、きたばかりだけれど……
あぁ、そこの人が、怪我をしていた人かしら
……暖かくしておいてあげないとね。
[部屋の中の、彼を見ることが出来た。眠っている姿。……わたしがきていたら、治療は出来ていただろうけれど。
起こすのも忍びない。]
先に、休むわ。
おやすみなさい?
[子供とか、そういう話を聞きに、アーヴァインの部屋に行こうと*決めた*]
それ、本人に言ってやったら?
[コーネリアスの呟きにそう返して。
側のソファにいまだ眠っている男を見遣って]
こいつ、このままにして置けないよなぁ?
どうすんだ、これ?
…ああ。
[声を掛ける間もなく、少女は半ば夢の中に旅立ちかけているようだった]
ご案内致しましょう。
[そう囁くように言って、少女を抱き抱える。使用人を長くやっているお陰か、割と力はあるようだった。
その場にいる者に軽く会釈をして、空いた寝室へと彼女は*向かう*]
――へえ?
[ 相手の言葉を聞きながらも関心は無かった様子だったが、憎しみを孕んだ聲を聴けば些か関心の色が混じる。]
[ 一転して淡々と続けられた台詞には、先程の問い掛けは単なる確認に過ぎなかったのか、そう、と然して衝撃を受けた様子も無く呟く様な聲を洩らしたのみ。
彼の手は相も変わらず火の点いた煙草を弄り、口唇が音を紡ぐ事はない。此の“会話”は奇妙な感覚ではあったが、直ぐに慣れてしまいそうだった。恐らくは、彼の人狼としての本能に植え付けられた性質なのだろう。]
[訝しげな声に怖気づくも、今を逃したら家に帰れないと言葉を紡ぐ。]
えっと、その、ホールの奥さんと…よく似てたから、幽霊かと思ってそれで…怖がっちゃって…。
[最後の方は随分と小さな声だったけど、それでも辛うじて言い切る。]
[正直な所、コーネリアスが館に住んでいた頃、彼は幼なすぎて記憶があやふやで。真相を教えてもらえるまで、すっかりきれいさっぱり奥さんの弟と言う存在を忘れていたのだ。
なんで思い出せたのかというと、それは実に単純で。
「あのおねーちゃんきれー」とコーネリアスを見て言ったらば、青年に仄かに思いを寄せていたらしい姉ちゃんに拳骨を見舞われた、その痛みを思い出しただけなのであるが。]
[怪我人の処遇を問えば、部屋が用意できているとの答が返り]
ふーん、じゃぁそっちに運んだ方がいいな。
俺ももう上に行こうと思ってるから、よかったら運ぶの手伝うけど?
[その申し出にお願いしますと言われて、それでは、と男を運ぶ為の用意を]
で、部屋何処?…あ、そう?分かった。
[そう言って、怪我をした男を運ぶ為に二階へ。
無事に運び終えれば、そのまま自分に与えられた部屋へと*戻っていくだろう*]
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