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誰かが植えたのかな。
変なの。茸が輪になって生えるなんて……。
[秋になったとはいえ未だ青の残る草の上、薄茶の茸が円をつくり並んでいる。
小さなその輪を見つけると近寄ってぐるりと見回った。]
円の中だけ、草が枯れてるんだ……。
[昔話に詳しくない少女には、それが妖精の輪と呼ばれるものであることが分からない。]
―森―
[店に戻るべく出口を目指す。
幼い頃から慣れているとはいえ、流石に暗くなると拙い。
仕事を抱える身のこと、尚更迷っている場合ではなかった。
というわけで、順調に道を進んでいた…のは良かったのだが]
[何だかずんぐりむっくりした影が横切って行ったような。
細かい作業の多い仕事柄、視力は然程良いわけでもない。
故に瞬いた間にいなくなったそれは見間違いとも取れたが、幻覚にしては色々と濃い。
辺りを見回すも、とうにその影はない。
目には未だ釈然としない色が*残っていた*]
しかしまァ、賑やかだったねェ。
お前にゃ災難だったが…おや、眠ってるのかいツィムト?
[片付け終えて皆を見送り、揺り椅子で腰を伸ばす。足元の寝床に丸まった薄茶猫は、去るティルを一睨みした後は眠ったようだった。飼い主の声にも耳を動かさない猫に静かに笑って椅子を揺らす]
さァて明日は表から来てもらう為にも裏口は閉めとくかねェ。
菓子作ってる最中に泥だらけにされたり箒振り回されちゃ堪らない。まァたお仕置きしなきゃ行けなくなるさね。
[言葉の割りに婆は楽しげに明日の手順を脳裏に浮かべる。
いつも開けてある窓から辺りに夕食の匂いが漂い始める頃、ようやく腰を上げた。
裏口にしっかりと鍵をかけてから、一人と一匹分の夕食を用意]
起きたらお食べ、ツィムト。
あたしゃ先に食べて寝るから、夜の番はよろしく頼むよ。
[ツィムトの分以外は片付けて、眠る準備の仕上げは一皿のミルク。いつも鍵を開けてある窓の外に皿を置いて、妖精へ短く感謝する]
妖精さん、いつもありがとねェ。
それじゃァ、ツィムト。おやすみ。
[のそりと動き出した薄茶猫に声を掛けて灯りを消し、二階の寝室へ上がる。月と星の光だけが照らす窓辺にずんぐりむっくりした影が過ぎり、皿のミルクを一気飲みして去っていく姿を見ていたのはツィムトだけだった*]
―森の中―
[ぐるりぐるり。茸の周りを廻ってみても答えは出ない。
気がつけば、空の端が淡い紫に燃えていて。
少女はあわてて村への道を辿り*始めた*。]
[リュックサックを背負い直し、急に暗くなり始めた森を注意深く歩く。
すぐ背後で人の声が聞こえた気がして、立ち止まり振り返った。
眠たそうな男の呟き。
けれど、そこには誰の姿もなく。]
誰か、いるの?
こんなところで寝たら風邪引きますよー?
[少しだけ震える声で呟いたけれど、答えるのは鳥の声ばかり。
小さく息をのむと、村の方角へと夢中で走り出した。]
[妖精物語に馴染みのない少女は、妖精の輪も、その周りを回ると妖精の声が聞こえるという伝承も知らない。
それでも、さっき自分が聞いたものは人ならざる声であることは本能的に*知っていた*。]
―― 早朝/森 ――
[青年の朝は早い。夜も明け切らぬ頃に目を覚まし、木々の合間に覗く深い青紫と鮮やかな橙の入り混じる空を仰ぐのが常だった。
森に住まう小動物の多くも、まだ寝床で夢に浸る時刻。
鳥の囀りも疎らで、木の葉のさやめきばかりが聞こえる。
朝露が地面に落ちる音すら響く気がした]
……さて、と。
[ぐるり、右肩を回す。腕に痛みはないものの、若干の熱は残っていた。
どうにも、魔法との相性は悪い。
その事実を知っているのは、ほんの一握りの者だけれど]
[……耳に届く音は静かなのに、森がざわめいている。
そんな奇妙な感じを覚えたのは歩み始めて少ししてからの事。
森の出口、村の外へと近付くにつれて、それは強まっていく。
首筋に手をやり頭を僅か左に傾けた。
眉根を寄せた表情には、困惑と、それより強い不快の色が窺える]
……。
[そっと近付いてみるも、音の原因となったものはもう通り過ぎてしまったらしく、何もいなかった。
小動物にしては大きな揺れと音。人だとしたら、大人にしては素早い。子供だとしたら、こんな朝早くにというのは少々不可思議で。
得体の知れない存在に、厭な予感が胸中を過ぎった。
そして恐らく、それは間違っていない]
─診療所・自室─
ふわ……。
[思いっきり、眠たげな声と共に目を覚ます]
うう……おかしな夢を見たのですよぉ……。
[ため息混じりに呟いて、ベッドから起き出した。
小さく欠伸を漏らしつつ、身支度開始。
しばらくお待ちください]
[人の世に残る伝承と、妖精の間で流れる噂話。
この村の事を長く調べ幾つかの事実を知りはしたけれど。
まさか、妖精の長が、直々になんて。
続く否定は人と妖精、どちらの言葉でも出ず。
ただ、だとしたら]
[丁寧に髪を編み、いつものように黒を基調とした装いを整える]
……さすがに、御師匠様も戻られてませんねぇ。
[帰ってきていたらそれこそ何者なのか、と突っ込む者はなく。
ともあれ自分と、鳥の分の食事を用意して済ませ、庭へと出る]
ブルーメ、何か、変わった事はありましたかぁ?
[玄関横で、普通の箒のふりをしている箒に小声で話しかけ。
返るのは、やはり、違和感を感じる、との返事。
むぅ、と言いつつ眉を寄せ、しばしその場に立ち尽くす]
……とりあえず、一巡りしてみましょうかぁ。
御師匠様の代わりに、往診もしないとならないですし。
[小さな声で呟くと、箒を軽く撫で、白い鳥と共に門を潜る]
あ、でも。
先に、色々と確かめた方がいいのかしらぁ?
[門を潜った所で立ち止まり、困ったように首傾げ。
とりあえず、村の中央にある広場へと足を向けた]
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