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[ふるふると首を振り、その場に座り込んだ。
開いた扉の間から、赤いものがじわりと流れてくる]
誰か、呼んできましょう、……か?
[それだけようやく口にしたものの、腰が抜けたのかうまく立ち上がれない。
口許を押さえて、それでも立ち上がろうと壁に手をついた]
―回想/ヴィクトールの部屋―
[水は、とか、世話を焼くのは、自分もそうしてもらった記憶があるから]
謝る事じゃない。でも、先に言って欲しかった。
あんたが体調崩して、万が一の事でもあったら、俺にどうしろっていうんだ。
……隠さないで欲しいんだ、ヴィクトール。
あんたのお蔭で、俺は普通に生きてこれてるんだから。
[両親が死んだあの日、慰めてくれた彼がいたからこそ。
それから助けてくれていたからこそ、自分は生きているのだ。
――彼もまた自分と同じように後悔しているのは、薄々と気づいていても、それを問い詰めることは出来なかった。
月日を重ねていくうちに、問うタイミングを失ってしまった]
わかった。
お休み、ヴィクトール。
[自室で、というものの。椅子をすすめてくれたから、その顔を見て微かに笑う。
早く寝ろというように、目を開けているなら片手で覆い。
寝つけない様子に、自分がやられたように頭を撫でてみたりもする。
人狼かもしれないなどと、疑うわけもなかった。
そもそもこの中に人狼は存在しないのかもしれない。そうであれば良いのだ。
違った時は]
――あんたは何もしなくて良い。
綺麗なまま、村の偉い人達の中に居れば良い。
人殺しの烙印なんて、背負わせるものか。
[眠りに落ち切っていたかどうかは知らない。
記憶に残るかどうかもしらない。
この事態への緊張からか、彼の言葉はほぼ無意識のうちに声として出ていた。
暫く様子を見ていたら、いつのまにかそのまま眠ってしまったようだ。アリョールの「部屋にいないだろう」という予想は正しかった。
無理な体勢の為、目覚めは常よりも早く、ヴィクトールの様子を確かめた後は部屋に戻って寝なおす事になった]
―朝/自室―
[彼の親は大変子煩悩であった。
あの日も、一体いくつの子供だ、自分は平気だと追いやったような気もする。
恵まれていたのだと、思う。甘ったれた事だと自覚はしていた。
だけれど、そういう日常は、夢に見る事もない。
一歩、人との距離を取る。失った時が怖いから。
今日も夢は見なかった。いつもの朝だった。
起きて身支度を整える。隣の部屋のヴィクトールは、もしかしたら起きているだろうか。
覗きにいこうか、と考えて外に出ると、端の方に人の姿が見える。
――鉄のようなにおいがする。
開くときは気にしなかった音を、閉める時は気にした。
それから、二人の姿の方へと歩いていく]
……大丈夫か。
[フィグネリアとタチアナの二人の様子に、まずはそう声をかける。
そのまま室内を覗くと、顔を顰めた]
―朝・2階客室―
[この異常とも言える環境下でも、寝付けないわけでも無く、悪夢を見るわけでも無く。
寧ろ見る者が居たなら、穏やかとすら言われそうな表情で彼女は眠る。
目覚めもすっきりとしたもので、身支度を整えれば室外へと出る]
――…ふむ?
[アナスタシアの部屋の前に、幾つかの人影。
その様相と周囲に漂う鉄臭さに、一つ声を零した]
[赤い血だまりの中、村の十人の彼女の事は知っていた。
目を伏せ、再び目を開けた時、二人へと向き直る]
動けるか。
広間に行こう。ここは閉めておく、今は。
手を貸す。
……アリョール。
[二人に手を差し出そう、として。
そこで廊下に出てきた彼女を発見した。
誤魔化す事はないが、見せるものでもない。
だから、事実を伝える]
アナスタシアが、死んだ。
[アレクセイから掛けられた言葉。
いつもの、唇をこつこつと叩く癖が思わず出る]
――…そうか。
[誰に止められても、止められなくても、墓守はアナスタシアの部屋へと入り込む。
幸か不幸か、人の死体は見慣れている。
アナスタシアが事切れているのは、誰の目にも明らかで]
あの旅人と同じだな。
人の仕業ではない。
[動揺するでもなく、たった一言。
人狼に殺されたという旅人の死体を、彼女は墓に預かる時に見ている。
それゆえの一言だった]
[部屋に入っていくのを、彼が止める事はなかった。
どういう状況か知っての上ならば、覚悟はあるのだろう]
――人狼、か。
[アリョールの言葉に、静かに言葉を返す]
この屋敷に、居るんだな。
ああ、確定だな。
[アレクセイへと向き直り、頷きを返す]
二人を任せて構わないか。
私は、他の人間に事情を伝えてくる。
それが終われば、墓守としての仕事だな。
[各部屋をノックし、アナスタシアが人狼に殺された旨を伝えていこうと踵を返す]
わかった。
[二人を、というのには頷く。
立ち尽くすタチアナ、それからうまく立てずにいるフィグネリア。
そんな姿に手を伸ばして、肩をたたく]
行くぞ。
広間に連れて行く。
アリョール、手が必要なら呼んでくれ。
[彼女へとそう言葉を投げて、二人を促して、必要なら手を貸して支え、広間へと向かう。
そうして椅子に座らせ、落ち着かせる為にと、台所に茶を淹れに行く]
あ、……アレクセイ、さん。中で、女性の方が――。
[増えた人影に気付いて顔をあげた。動けるかという問いに頷いて、今度はゆっくり立ち上がった]
アリョールさん……。……?
[続いてやってきたアリョールが部屋の中に入っていくのに目を瞬かせる]
あの、彼女は?
お医者様、とか?
[女性の医者などあまり聞いたことがなかったが、この状況を見ても変わらない様子にそんな疑問を零す。
血の臭いに酔いそうで、口許を押さえ部屋の前から離れることにした]
[アリョールが各部屋をノックして回る様子を見ながら、アレクセイに促されて広間へと向かう。
一階に来れば血臭は弱まった気がしていた。
広間に辿り着くと椅子に座って気を落ち着ける]
……あの方が、アナスタシアさん……。でも、誰が。
旅人と同じって、この中にいるって言うんですか。
でも、つまり、誰かを処刑するって事、ですよね。
[ポケットに手を当てたけれど、寝る時にナイフは出したままでそこには入っていなかった]
[未だ部屋から出ていない人間へ、アナスタシアが人狼に殺された旨を伝えて歩く。
各々の反応はどのようなものだったろうか。
伝え終われば、今度はアナスタシアを、地下へと運ぼうとする。
アレクセイの言葉は覚えていたが、アナスタシアの身体は割合軽く、アリョール一人でもなんとかなる様だった。
もしその際に他者に声を掛けられれば、助けを借りもしただろう**]
アリョールは、墓守だ。
[フィグネリアの問いに対するのは、その一言。
広間に連れていき、座らせた彼女の言葉には、そうだなと一つ頷きを]
あのナイフで誰かを――人狼を殺さなければならない。
とは言っても、誰がそうなのか。
茶を淹れてくる。
[一人暮らしなのだ、それくらいは出来ると。
フィグネリアとタチアナを置いて、台所に向かう。
暫くすれば温かい紅茶を入れて戻ってくることだろう**]
[現れたヴィクトールを、憐れむ様な眼差しで"彼"は見遣った]
おいで。
[聲での招き。
二人、アナスタシアの部屋の中へと入り込む。
アナスタシアを選んだことに、さしたる意味は無い。
ただ、ヴィクトールを目覚めさせる為に、旅人では効果が薄く、親しすぎればショックが強いだろうというその程度]
[狼として、爪牙を振るえば人が事切れるまでの間は、刹那にも近い。
物音一つさせないままに、命を奪い、改めて"彼"がヴィクトールに向き合うのはそれから]
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