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終焉の使者。
そんな…
[続いた言葉に、眉を寄せました。]
どうして、そうだと?
[遺体の傷は見ていませんし、仮に布団を剥いだとてこの眼では見えないでしょう。
それが幸いか、不幸なのかは分かりませんけれど。]
人の手による傷じゃない
死体は見慣れてるからな、それくらいはわかる
――先に見たあの男もそう言っていたぞ
見た奴らに聞けばいい
[問いには簡単な答えを]
終焉の使者が二人居るとなれば、誰にアリバイを聞いても無駄だろうな
[リィン]
[鈴を揺らし、黒の門をくぐる]
[多少、顔触れに変化は有ったものの、広がった緋色は変わらない]
[そこに居た人々に、女は唯一礼をするのみ]
[手を洗えそうな場所へと足を進めていく]
ケッ呑気なもんだぜ。
記憶ねえ傷持ちをよく放置出来るもんだ。
あん、あれか? いつのまにか出来ちまってたのかねえ?
[誰もいないキッチンに入り込み、食料より先に刃物を漁る。一番切れ味の良さそうな包丁を布巾に包み腰のベルトにねじ込んで辺りを見回した]
お、何か残ってるじゃねえか。上等だぜ。
…冷めてるにしちゃまあまあだな。
[鍋の蓋を開けて昨夜の残りを平らげ、足りない分を漁る。連なる腸詰を齧りながら日持ちのする食料を幾つか包む]
…傷。
[それを聞いて、床の白に手を伸ばし掛けて、…止めました。
その手を胸前まで引き戻し、杖を両手で握ります。]
本当に、いるのですね。
[眼を伏せました。
傍からは、祈りのようにも見えたかも知れません。]
ああ、いるだろう
――いつまでも此処に置いておくわけにはいかないな
見たくないなら、行っていろ
[言いながらしゃがみ、男は死体の傍にしゃがむ]
[布団ごと持ち上げるつもりではあった]
[鈴の音をさせ、キッチンの扉を開く]
[男が一人何かをする態を見つけ、女はくれないを開いた]
物取りの様でございますね。
[その反応を見る事無く、女はその場にある水を指先へと掛ける]
お独りで、大丈夫ですか?
[非力な上にこの眼では、碌に手伝いなどできないことは分かっていましたが。
言葉からその動きは予測できて、わたしはそう問いました。]
なんとかなるだろう
少なくとも――生きている時よりは
[手伝うというのなら止めはしない]
[外に運んだ後は、埋めるなど手間のかかることを、*一人でやる心算はない*]
[一度止まった言葉の続きは察しがついてか、僅か、眉を寄せ]
……確かに、な。
何かしらやっとかんと、まずいだろうし。
[続いた言葉にには、ため息を交えて同意を示す]
[涼やかな鈴の音にばっと振り向き、警戒する目つきで下から女を睨む。指を洗う仕草を見で追いながら口からぶら下げた腸詰を噛み千切る]
…ケッ、もう番人はいねえんだ。
ここにあるのは誰のものでもねえよ。
…その、
何か、探してきましょうか。
[埋めるならば掘る道具を、火葬ならば火を起こせるようなものを。
力仕事は難しいですし、探し物だって他の人がするより時間は掛かるでしょうけれど。]
そうですね。既に、誰の物でも。
――此処に於いて、確実に自己の所有物だと言えるのは、己が命程度に過ぎないのかもしれません。
[吐息混じりの呟き]
[入念に水を掛け、指を擦り、それでなお続く疼きに眼を伏せる]
……っ。
[小さく息をつめた後、辺りを見回す]
[一度眼差しが男に止まり、くれないを開いた]
貴方は既に番人殿の事はご存知でいらっしゃいますか?
……必要なら、手は貸すが。
[何とかなる、という言葉に、短く問い、壁から身を離す]
怪我人だが、腕が全く使えん訳じゃない。
[疼きの鎮まった腕を軽く撫でる。
紅は変わらずそこに滲んではいるが、昨日ほどには色彩は広がってはいなかった]
まったくだ。それもいつ取り上げられるか知れねえと来てる。
…碌なもんじゃねえよ。
[キャロルに同意を返し、小さく息を詰める音にぎらつく目を女の濡れた指に向ける]
…ああ、番人なら見たぜ。
獣の爪に裂かれひでえ有様だったな。
アンタも見たようだが、その指先で裂いたんじゃねえだろうな?
それとも、…床を拭くのが先でしょうか。
[床の白に滲み、或いは広がる赤い色を、わたしは見つめました。
と、不意に声がしました。
振り向いた先に灯を翳し、目を凝らしてみると、緑色が見えます。]
何があったのですか。
この臭いは。
[散らされても残る異臭。
それが何であるかは確信しているような問い。
向けられた蒼氷を受け止める翠は、どこか色薄く]
床を。
…黒くなる前に?
[灯りを向けられれば僅かに目を細め]
それが必要であれば、布を持って参りましょう。
水場に積んでありましたから。
[言いながらゆっくりと段を降りてゆく]
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