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―工房『Horai』―
[幼馴染夫婦が営む工房を青年は訪れた。
扉を開けて遠慮なく中に入る]
よ、邪魔するぜ。
イレーネ、居るか?
[通る声が『Horai』に響いた。
背にした扉の向こうからは雨の降り出す気配。
雨音に青年は少しだけ柳眉を寄せた]
─工房『Horai』客室─
わかりました、えっと……。
金額は、十分すぎるくらい。
[ミハエルから提示された金額に、ほんの少し不安な色を見せたのは、
自身の作品への過小評価の現われで。
ともあれ品を見てもらおうかと、一度席を立った。]
少し待っててね。今取ってくるわ。
[そのまま足は再び工房へと。]
二、三日くらいしたら戻るだろうからまたすぐに会えるさ。
それと注意しても落としたときは、掃除するの私なんだからな。
[父親の件についてはそう返しながら、灰皿は渡したままそんな小言も付け加えつつ部屋へと案内しようとして]
んっ、キーファーはもうお帰りか、またな。
[飛び立ったキーファーを見送りながら、アーベルと同じく見上げた空の様子に]
親父、無事麓にはついてるかな?
―工房『Horai』/客室―
あ、誰か……この声はライ君かな?
[イレーネが工房に向かうようなら、
2人に断りをいれてからゼルギウスが玄関へと向かう。]
―雑貨屋―
何か気を取られることがあったのかな。
うん、気をつけて。玉のお肌なんだから。
[修道院では自前でも作っていることだろう。物によって作れないものは注文を受けることもあるけれど。
余程の考え事をしていたかと、最後は軽口を付け足して]
基本は旅生活だからね。
怪我は日常茶飯事、にはしたくないんだけど。
[それこそ厄介事でもあれば大量に必要となることもある。
薬で済めば安いほう、だろう]
あっと。そうだよ。もう一つあったんだ。
その絹のスカーフと一緒に手に入ったものがあって。
変ったお茶も好きだって、去年言ってたでしょう。
[摺り硝子の瓶を取り出して蓋をはずして見せる。香草入りなのだろうか、スッキリとした香りが自分でも気に入った品だ]
─工房『Horai』・客室─
…ああ、美しい人だった。
[母の話は自分から出したものとは言え、過去形で返さざるを得ない状況に僅か気勢が落ちた。
思い偲ぶように翡翠が瞼に隠れたが、口許は柔らかな笑みが浮かんでいる。
閉じた瞳に焼き付いているのは、穏やかな母の微笑み]
ゼルギウスは任すに足る人物だと、僕は思っている。
父上に掛け合ってみよう。
ああそれと。
これは今回の依頼の報酬だ。
[再び翡翠が覗いた時に見えたのは困ったようなゼルギウスの顔>>510。
イレーネを心配しての事だろうと言うのは容易に知れて。
クス、とつい笑いが漏れる。
それをやや誤魔化すかのように、先払いで依頼の報酬をゼルギウスに差し出した]
─洗濯小屋─
…よいしょ…っ…
…あれ?
[油革を洗濯籠に掛け、もし雨が降り込んできても預かった品を汚さぬように準備をしている最中、外から聞き慣れた声が聞こえたような気がして手を止めて。
戸を開けて外を見れば、いつもの蒼鷹の姿があった。]
良かった、来てくれたんだね。
そろそろ雨がきそうだから、中にどうぞ?
[来ないこともあるから、今日は一人で夜明かしかなと思っていたところだったので蒼鷹の姿を見られてほっと表情を緩ませていつものように中へと促した。
きっと誰かが躾けたのだろうまるでこちらの言葉がわかるような節のある蒼鷹はどうしただろうか。]
―工房『Horai』客室―
それじゃあ、もう少し。
[ゼルギウスの言葉に頷いた時、声が響いた。
応対に出るゼルギウスを見送り、カップを両手で包んだ]
―雑貨屋―
傘は…うわ、一気に降って来たか。
[さっきまではしていなかった雨音がはっきりと聞こえる。
風の音も強い。傘では吹き込まれてしまいそうだ]
うーん、これは。
荷物濡らしたくないし、少し雨宿りさせてもらってもいいかな。
─工房『Horai』─
[工房に向かう前、入り口の方からした馴染みの声に
先にそちらへと足が向きかけたが、
夫が対応するのが見えれば、商談中なのもあり工房へと足は向く。
工房の奥にある作品棚から、作り置きしておいた小さな銀の耳飾と、
小さな粒を幾つかつかった、ラピスラズリのブローチを
布に一つ一つ包んで取り出し。
客室へと戻って来ると、テーブルの上にミハエルに見せる様に、
置いて包みを開いて見せた。]
こんな感じの物なのだけど…。
[どうかしら、と、青い目が問いかける。]
―工房『Horai』/玄関―
[妻が浮かべた表情に、やっぱり少しだけ困ったような貌をして。
そして、ミハエルの母親に対する過去形の言葉に、纏う雰囲気に眉尻を下げた。
けれど、今は結局、何もそれに対しては謂わぬまま]
わわっ。ありがとう。
もし、任せて貰えるようだったら頑張るよ。
報酬は……ありがとうね。
[翡翠の一件への返答を告げ、報酬を受け取ると、ライヒアルトを迎えにと席を外し、玄関先へと。]
やぁ、ライ君。
イレーネは今商談中なんだ。
あ、雨降ってきちゃったんだね。
佳かったら、雨宿りして行ってよ。
[困り顔は何時ものふにゃっとした笑みに変わり、妻の幼なじみに声をかけた。]
あ、そうなん。じゃ、いいか。
[2,3日で戻ってくるというベッティの言葉に、ふむと頷く。
小言には視線を外し、]
はいはい、分かってるって。前向きに善処はする。善処は、ね。
[そう言いつつ、ぐりぐりと煙草を灰皿に押し付けて消火。
そして、蒼鷹が飛び立った空を見上げ、]
……嫌な空だ。嵐でも来るか。
[スッと目を細め、ポツリと呟いた。]
─宿屋─
……ただの雨……にしちゃ、風が強いな。
荒れるかもしれねぇ。
[窓越しに見える空。
話す間に降り出す雨の勢いと、風鳴りの音に小さく呟く]
ま、そんなに酷くならなきゃいいんだが、な……。
―工房『Horai』/玄関―
[名を呼んだ幼馴染の代わりに現れるは旦那の方]
何だ、イレーネは居ないのか?
……いや、そんな事はないな。
こんな天気でイレーネ一人外に出てるなんて
有り得ない事だよな。
[過保護っぷりは熟知していたから
ゼルギウスを眺めながら呟く]
商談中か。
なら、少しだけ待たせて貰うとしようか。
長引くようならお前さんに渡しといてもいいんだが……
[幼馴染の様子が気になるのも確かで
僅かばかり迷うような様子を見せた]
―工房『Horai』客室―
[家主たちのいない間はカップを揺らしつつ、ミハエルと同じように窓の外を見て。
程無くイレーネが戻って来れば、視線を室内に戻した]
あら、素敵……
[机の上に開かれた包み、現れたその中身を横から見て、ほう、と感嘆を洩らす。
微かな雨音が耳に届いた]
[自分の言葉に返事をするように鳴いた蒼鷹は、そのまま中へと入ってきて。
いつものように部屋の隅に落ち着くとこちらの仕事を見守るように大人しくなった。
それを微笑ましいような頼もしいような心境で見ながら作業を再開して、ほどなく全ての品に油革を掛け終えた。]
さて……すぐに収まってくれると良いけど。
今日は雷鳴るかなぁ?
[ねぇ?と蒼鷹に首を傾げればこちらにその双眸が向くだろうか。
当然返事はないものの、一人ではないことがなんとも心強い。]
そうだ、今日ね、ライ兄からクッキーもらったんだよ。
君にも食べさせてあげたいけど…君にはこっちの方が良いかな。
[そう言って食品棚から持ってきたのは鶏肉の燻製で。
食べやすいように細く裂いてから蒼鷹の前に出して、どうぞ?と笑いかけた。]
これはね、この間ベッティの小父さんが作ったののお裾分け。
美味しいよ?
―宿屋―
アーベル、ユリアンぬれて帰って来た時のために風呂とタオルの準備頼む。
[このまま降り始めたらその可能性もあるかと思い、そう声をかけてから、
ブリジットをいつもの部屋へと案内して]
ブリたんは降る前にうちについてよかったんじゃないか?
[前向きに善処との言葉にはそれ以上そのことに言及することはやめたとか。
いつものやり取りだったかもしれない]
強まる風。叩きつけるような雨。閃く光。
通り雨であれとの祈りは天まで届かなかったのだろうか。
……カラン……
崩壊は小さな音から始まった。
それは徐々に周りを巻き込み、終には唯一の橋の袂へと雪崩れ込む。
一度転がり始めてしまえばもう止まらない
同じように運命の輪は加速する――
其れが好いのだよ、ふふ…毎度あり
お値段はこのくらいに成るけど…即金で支払えるかい?
[現金一括、明朗な会計を済ませるべくユリアンに金額を提示した。
吹っかけかどうかの娘の心中は計り知れず、買う買わないかの二択を迫るようで。
綱渡りの商談に成るか否かは彼次第でもある。]
紳士なら真摯らしくお願いしたいな
助平と云う名の紳士と云い改めても好いのだけど
[少年が浮かべるような、悪戯な笑み。からかうように云うとそれきりで、
好い品と聞けば商売人宜しく娘は真面目に耳を傾けようとして。]
ふぅん…
其れほどまでに好い品なら如何いうものか見せてよ
そうだね、近道しようとしたら…ってくらいのうっかりだよ
[玉のようなお肌、と聞けば、やっぱり助平だとくちびるを尖らせ。
気遣いは有難く思う反面、調子が狂うのかむず痒い気にはなった模様。]
そっか じゃあユリアンは傷まみれのおっちょこちょい珍道中だったりするのかい?
[大げさなものではないとは思うがからかいに訊ね。
お茶の話になれば、おおと嘆息して眼を大きく見開く。]
これは…ハーブティーなのかい?
うわあ…好いなあ、凄く涼しげな香りがする
――――ン、暑い季節にぴったりだね
[興味津津、嬉しそうに硝子瓶の中を覗き込んだ。]
─工房『Horai』客室─
――良かった。
ミハエル君は目が肥えてるから、
そう言ってもらえると胸を張れるわ。
[賛辞してくれる夫を信用してないというわけではないが。
他者の目と評価は、それとは違ったものを与えてくれ、糧になる。
ミハエルの言葉に手を胸にあてホッと息を付けば、
ようやく窓の外にも気を配る事が出来た。]
あら…降ってきたみたいね。
[急に強くなってきた雨足に、大丈夫かしらと瞬いた。]
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