細工物屋 玲は、青年 聡に答えて。しばしの間を置き、ふわり笑った。

細工物屋 玲は、くん、と鼻先を差し出して目を細め。猪口にもう一杯注ぐ。

少年 翔は、なにこのかおす。と呟いた。

小説家 榛名は、それからきょろりと辺りをみまわした。

職人見習い 裕樹は、研究生 孝博の言葉や聡の突っ込みにも笑いつつ。

細工物屋 玲は、桜の根元にそおっと御酒を注ぎかけ、名を呼ぶ母の声にびく。

小説家 榛名は、未亡人 綾野の方からもお酒の匂いがする気がした。

青年 聡は、甘い香りに、ゆるく瞬き、一つ。

少年 翔は、真顔。

細工物屋 玲は、青年 聡の声には、くすくす笑みを零したけれど。

歌姫 琉璃は、細工物屋 玲が御酒を注ぐのにくすくすと笑い。触れる桜の幹を撫でるよう。

細工物屋 玲は、一陣の風。薄墨舞う桜吹雪に、目を瞑って。

小説家 榛名は、未亡人 綾野にてとてと、近づいて。ぎゅう。

職人見習い 裕樹は、笑いながらも、ふと顔を顰める。

青年 聡は、さざめく枝の様子に、不信顔。