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或いは人である内に食物を捧げれば、多少慮っていただける可能性もございますわ。
――苦しませる事無く終焉を授けて下さるかも。
要らぬ優しさではありますが。
[そう告げて男を残し、キッチンの中へ]
いいや、仕方ないさ、お嬢さん。
俺の影が少し見えるだけで十分さ。
飛び跳ねる音がうるさかったら、ごめんな。
[そう言って、静かに笑った。]
それで、か。お嬢さんが音に引きつけられてここにやってきたのは。視力が少ない人は耳が冴えるというのは、本当なんだね。
[髪をくしゃりと掻き、ちいさく*笑った*]
前向きだろうさ。
自分のやりたい事、そのために動いて行くんだから。
[からかうよな口調で言い、再び鍵盤に指を落として行く]
……少なくとも、俺よりはずっと前向きだと思うぜ。
[独り言めいた言葉は、再び紡がれ始めた旋律と共に零れ落ちる。
呟きが届き、その意を問われたとしても、返すのはどこか*曖昧な笑み*]
[料理に意識を向ける男に幾つか声をかけた後、
キッチンの中を探し始める。
薪を見つける前に探り当てたのは、調理用の刃物。
がた、と存外大きな音を立てて一本を抜き取り、じっと見詰めた]
[その場に残っていた青年に目礼をして、その近くにある鍋を温める]
[ポタージュを皿に移し、中に入ってきたあかの髪の男へと手渡して行く]
[チリン]
[掬う度、鈴の揺れる音]
私は広間に戻りますが。
薪を運ぶのは手伝いが必要でございましょうか?
[問いはあかの少年に向けて]
[先程の事を見られた気まずさからか、鍋の近くに立つ男にはあまり碧眼を向けなかった]
[ふ、と響いた音に首が傾げられる]
何かをお探しですか?
[鈍い煌き。
側面に指を滑らす]
……んーん。
こういうの、持っていた方がいいのかなと思って。
でも、わかるように持っていたら、逆に危険と思われて襲われそう。
[揺らめかすと、その先端が木の扉に当たり、僅かに削った。
元の通りに戻して、戸も閉める]
運ぶのは、一人でも平気だよ。
……多分。
[程なくして薪置き場を見つけ、抱え上げる。
「重い」という感想は、平気と言った手前、飲み込んだ]
それじゃオレは、広間行ってるね。
[無論、獣たるかれに刃は要らないけれど、
牙を恐れる人を演じるなれば必要かと思う。
月の出ぬ間には、その力も望む侭には振るえぬのだから]
見つかっては、意味がありませんね。
それに、扱い慣れぬならばご自身が危険なだけでございましょう。
それでも生き延びるのに必要だと思われるのならば、お持ち下さいませ。
私は未だ、何も持ち得ておりませんが…わかりやすく見える力も、無力に見える様も時には、等しき効力を持つ場合も、或いは。
[長い睫毛を伏せ、僅かな笑みの形を作る]
[重たげに薪を抱える少年を見て、まずは女はキッチンの扉を*開いた*]
ううん。いいや。
確かに、その通り。
扱い切れない力は、却って己を不幸にするから。
[作られた笑みの真意は見えない。
映していたのは、ほんの一時。
厨房を出る際に内へと視線を向ける。
香り立つ鍋。
平和と思える光景。
それこそが異質と成り得る今。
一瞥して厨房を去り、広間へと歩みゆく。
燻る暖炉に薪を放り込むと、大きく音を立てて*燃え上がった*]
[立ち去る間際に向けた眼差しは同胞を捉える]
ねえ。ギィ。
狩りの前に、ギィの処に行ってもいい?
朝を迎える時には、自分の部屋に居るから。
今日はヴィーを狩ろうかと思うんだよ。
邪魔そうな人を消す方が良いでしょう?
それに抗ってくれるみたいだから。
あの鼠の人は変な臭いがして、僕は厭だな。
それに、バートはギィのほうが欲しそうだもの。
[扉を示した後、イザベラは奥へと入って行く。少女は後には続かず、手前の大きい部屋に留まった。共に入るべきでは無いと、何となくそう思ったために]
[イザベラを待つ間、少女は何をするでもなくその部屋に居た。部屋の中を順繰りに見て、一点を見て動きが止まる。それはこの部屋の物を見るのではなく、更にその先、この部屋から離れた遠くを見つめていた]
……白い、花……。
緋色の中の、白。
[小さな呟き。瞳は紅紫から滅紫へ。焦点の合わぬ瞳が向いて居たのは、番人が埋められている方向。少女の瞳には、彼女にしか見えぬ夢幻の華が*映し出されていた*]
―キッチン―
[扉から入ってきた三人に、男はさっと顔だけで振り向いて]
やあどうも。
随分と長い間外で話をしてましたねえ。
[布地ごしのくぐもった声で挨拶をし、そんな言葉を付け加えた。]
[話しかけては見たものの、三人共に断られ、軽く肩を竦めて苦笑する。]
[火から鍋を下ろし、用意したカップに丁寧に注ぐ。]
[濃い赤紫色の液体から、湯気と共に香気が漂……っている筈だが、鼻にこびり付いた焦げ臭いにおいでよく分からない。]
[男はスカーフを外すと、温めた酒を上機嫌で啜りはじめた。]
[そのままキッチンの作業台に腰を乗せて、黙って三人の様子を窺っていたが]
[カップで隠れた口元]
[包丁を手にする少年に、スッと目を細める。]
[一瞬、鋭い光。]
[やがて三様に去ってゆく三者を]
[じっと見詰める男の双眸は、]
[笑みともつかぬ、軽く持ち上がった口の端はそのままに]
[奥底に硬質の光を宿して、消えることは無かった。*]
[同族の少年が去り際にこちらを一瞥]
[唐突な申し出に、男は面白がるような聲を返す。]
構わないが……
どうした、急に。
俺がおまえに触れたいと言ったのを気にしているのなら、あれはそんなに気にしなくても良い。
ヴィー?
包帯の男を狩ると言うのか?
[伝わってくる少年の聲は愉しげで]
いいだろう。確かに厄介な男の頭数は減らしておくに越したことは無い。
抗う様を見たいと言うのなら、ちょうど良い獲物ではある……
違うよ。
僕が、そうしたいからするの。
死ぬ心算はないし死なせる気もないけれど、
何時、どうなるかは分からないから。
[許可には小さく笑みが漏れた]
[今、彼の顔を]
[その瞳の奥を覗くことが出来たなら。]
[剣呑な光が宿っているのが見えただろう]
[狩りの衝動]
[情欲と紙一重の]
[底無しの食欲]
[勿論それを見ることの出来る人間はこの場には存在しない。]
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