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……ああ。怪我をしているんだな。
[飛び立つ少し前、疾風を撫でるスティーヴの手に血のにじんだ布が巻かれているのを見て]
……少し、痛みをとる程度だけれど。
[スティーヴの手に、それよりは随分と小さな手を重ねるとすうと息を吸い込み、意識を集中した。わずかな銀の光と共に、傷を小さくし、痛みを和らげる]
ん、行こう。
[飛び立つ。スティーヴに遅れないように、精一杯速度を合わせながら、夜風に淡い銀の翼を躍らせた]
[拡げられた羽根に目を奪われながら、横に首を振る]
……ううん、気には、ならない
きっと、望む世界が、違うから……
僕の、見たい世界は、あそこには、ないから……
[飛び上がった足首に、紫の煌きが絡まるとそこに周りを取り巻く闇が吸い込まれるようにぞわりと動き。
体は傾いで肩から地面へと落ちた。]
っつっ…!
[肩の痛みか足首の縄か。
どちらにかは定かで無いが、落ちた地で体を捻って呻いた。]
……?
どうか、した?
[常に“繋がっている”わけではない。
ゆえに、感覚は同じではなく。
数度瞬いた後、ゆるりと立ち上がった]
慰めて欲しかったのか?
[瓶をふたたび傾けるカルロスに手を伸ばす。]
そいつは知らなかったが。
お前が振られるのなどいつものことだろう
[瓶を奪おうとしながら、ことばをつむぐ。]
――堕天尸が誰だったか、知ったか?
[紫星の縄はそのままに、落ちた身体を追って地へと降りる]
……いかせるもんか……アンタには、言いたい事が山ほどあるんだからっ……。
[慣れぬ翼の操りと、力の行使。
疲労が深いが、それを気にする余裕はなく]
結界樹の中で、頭、冷やさせて、やるから、大人しく、しなよねっ!
[切れ切れの声。
それに重ねるように、解放されたラウルがくるる、と鳴いた]
苦しみも、辛いことも背負って生きていくと。
オーフェンの答えはそうなのですね。
それならば、何故そんなに空虚なのでしょうか。
どうして、辛いことから逃げようとするのでしょう?
[ その目をじっと見て、もう一度問う。]
もう一度お聞きします。
苦しみから逃れたいわけではないのですね?
[目指す先、煌めく光が見えた。それに照らされた竜胆色の髪も。
そちらへと四翼を強く羽ばたかせつつ、手をそっと握る。
カレンの治癒のお陰でほぼ痛みはない。
いざとなれば、鏃羽根を使うのには十分だった。]
……カレン、疾風を頼む。
[ラスに煌きが絡まるのを眇めた目で見、疾風を抱く手をカレンへ伸ばす。]
まさか。アンタが俺を慰めるなんて、かえって酷いことにしかならない。…そうだろ?
[笑う事を失敗かのように、歪む口許。
奪われた瓶を追うように視線を上げて。
かけられた言葉に息を飲む。それは、明らかな肯定で]
……、なんで。
[その縄が絡めばぐたりとして。
再びその額に汗が浮く。
その長い体を地面に伏せたまま、アヤメを細い目で見上げる。]
…言いたい、事?
[表裏一体の、矛盾の螺旋に心は揺れ。長老たちの前で宣言したエリカの姿を思い出して]
……苦しくて……も……っ、いい……
逃げるのは、もう……終わり……
[暗い深紅の瞳から、一滴の涙が頬を伝い、海へと落ちていく]
ほんとうに情けのない顔だな。
[取り上げた瓶は床へほうる。
音をたてて砕ける硝子。]
――俺が、堕天尸が誰か知っているのが何かおかしいか?
おめでたいな。
[哂った。]
[闇の底、深紫の光が見えた。一緒に、竜胆の髪も。気配は二つ。一つは……一瞬、よく分からなかった。深い深い、何かの気配。もうひとつはよく知っている、これは]
……ラス、と……アヤメっ。
[スティーヴの伸ばす手から疾風を受け取り、光の見えたほうへ近づこうと羽ばたく]
……愚痴とか、相談とか、あるなら聞くからって言ったの……誰さ。
[ぽつり、零れるのは、掠れた呟き]
他に、こんな甘えた話できるの……いないんだから、ねっ……。
[視界がぼやけたのは、気のせいだと。
そう思いながら、小さく続けて]
[ それを聞くと満足そうに微笑んだ。]
そうですか。
オーフェンがそう答えを出したなら。
それを貫き通すのを見せて下さい。
楽しみにしていますよ。
[ そう言って薄い金色の羽根を羽ばたかせる。]
泣くなとはいいませんが。
貴方にはすべきことがあるのではないですか?
[ 左目の色は元のバイオレットに戻っている。]
[アヤメの言葉に、目を細めて、何か言おうと口を開いたが、何か零れるものが見えたならばそのまま口を噤んだ。
漆黒の翼はてらりと光り、その存在を主張している――]
[疾風を渡し、紫紺の二対を大きく広げる。
滑る様にラスとアヤメの方へと。]
―――ラス、アヤメ…!
[抑えた声で、闇がアヤメを襲わぬ様に、その漆黒を睨む。]
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