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[ミハエルの終わったという声に、ぴくりと反応してゆっくりと顔をあげた。
涙だけは零れ続け跡を残していったが。]
………
[ゆっくりと、泣き顔のまま
漆黒の獣の下にある人へと視線が向いた。]
(――――言わなかったの?)
[狼が二匹居るということを、誰かに。]
あ…………っ
[今やっと、もう一人の幼馴染の意図に気づけたような気がした。
偶然なのかもしれないけれど。]
[ミハエルの言葉に、アーベルに折り重なるようにしたライヒアルトの姿を見る。
幼馴染を二人殺したはずのその姿に、浮かぶのは憎しみでもなんでもなく、
ただ、アーベルと一緒にいったそこへの羨望が心の奥底でいつまでもくすぶっていた]
アーベルの意思は……尊重…してやらねぇとな……
[ゲルダの言葉にぽつりと呟き、今はもう泣いても笑ってもいなかったかもしれない、
こぼれる涙をごしごしと裾でこすり立ち上がった。
それでも、自分は答えがほしかった、ただアーベルにとって自分がなんだったのか、はっきりとその言葉を。
もうそれを知る術は永遠にないのかもしれないが。
イレーネに問いかける言葉、そちらの方を顔を上げて見る]
[イレーネの言葉を待ちながら、ミハエルの言葉に、
黒の毛並みに埋めていた貌をそっと離して。]
……うん、呼んでくるなら僕も行くよ
ごめんね…手、離しちゃって
[手をつないでた方を見詰めながらミハエルに侘びて。]
……ベッティ
行こうか
此の侭二人を野ざらしにしておきたくないのだよ
[識ることの出来なかった、幼馴染が求めた青年への応え。
娘はなぐさめの言葉は持てなかったから。
だから、先の事を考えようとそう想って。]
[だとしたら、ライヒアルト取り乱さなかったのは本能だろうか。
大切な同胞だったが、傍目には長い付き合いの幼馴染という間柄で
夫と同じように取り乱せば、それは奇異に映るかも知れず。
ぎゅっと、同胞の黒い毛を、手を握るように掴んだ。]
……如何したい?
[涙に濡れた顔のまま、問いかけたゲルダを見上げれば]
………ゼルを、家につれて帰りたい。
きちんと弔いたい、の。
[離されたままの、愛した人の事を口にした。]
[ゲルダの謝罪を聞けば、ゆるりと首を横に振って。
繋いでいた手を再びゲルダへと伸ばす。
まだ痛むようなら支えようと]
…ゼルギウスを弔うには、やはり自衛団を連れて来ないとな。
[報告すれば回収された遺体も解放してくれるだろうと、言葉に意味を込めた]
ああ……
[短い言葉を返し、ゲルダに促されるまま、その後についていくように歩いていく。
途中そこに後ろ髪を引かれるように、何度か振り返りながら]
…そう、だね
……僕、取りあってみるのだよ
僕がお爺ちゃんの孫だって解れば、
きっとゼルギウスさんも…直ぐに弔えると思う
[簡単には行かない事かと想ってか。
騒動が終わりを告げたとはいえ、自衛団に知らせなければ意味がない。]
……イレーネさん
[ほつりと零した名に続く言葉は無く。
仮令、彼女が何者だとしても其れを確かめる術は無いのだから。]
……終わったね
[咎めることはなく、唯事実のみを伝え。]
私は……皆が行くなら、戻ってくるまでここに残るわ。
[3人居れば問題ないだろうという事と、
自身の体の事を表向きの理由に座ったまま見送ろうと。]
え……ゲルダちゃん、ギュン爺の孫だったの…?
[知らぬ事実を耳に入れて、青が瞬いた。
彼女の声に、何かを感じたが
人の中に生きる狼は、何も口にすることはない。
問われないのであれば、知らないまま。
でなければ意味が無いのだから。]
………そうね、終わった、わ。
[仲間の死をもって――――。]
[その場に佇むイレーネは幼馴染達を弔うようで。
残るという言葉には頷いて娘はやおら立ち上がる。]
…うん。
内緒、だったのだけど、ね。
―――…もういないから、隠す必要も無いや
…ね、イレーネさん
その子は、間違い無く――――…
望まれて生まれてくるの、だろうね
[それだけ告げて、許されるならばイレーネの腹を
そっと触れ小さな命を想い。]
行ってくるのだよ、ちょっと…待っててね
[自衛団に向かい、事の顛末を伝えれば瞬く間に警戒態勢は解かれることとなり。団長の孫だと明かした娘は直ぐに命を落とした者を手厚く葬って欲しいと陳情をして。]
――――…終わった、んだ
[はらった代償は、あまりにも多くて。]
[ゲルダが、ギュンターの孫だったと、それは自分が始めて聞く内容だったが、驚くようなそぶりもなにもなかった]
終わり……か……
[ぽつりとのその言葉を、復唱するようにただ呟いた]
[そこに誰も居なくなった頃
幼馴染と、その上に有る獣を。二人一緒に抱きしめた。]
……ライ、アル。
[いつか幼いある日のように。]
ご、めん…二人の肩、借りていいかな…?
[緊張の糸が切れたようにベッティとミハエルに抱きついて。静かに、静かに―――涙を流した。]
ごめんなさい
[始まりは自分のせいだった]
………ごめんなさい
[なのに生かしてもらった、文字通り命をかけて]
………………………ありがとう
[守ってくれていた人へ
未来を作ってくれた人へ
愛してくれた人へ―――]
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