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[そして、我が身は混沌のカケラの中を無理に進み出て、自らの目で中庭の前景が見える位置へと移動。
その代償は、混沌のカケラによる一斉の攻撃。傷は浅くない]
さて、結果は何なりや―――?
[ナターリエに、次の手は残されてはいない]
< 幼児の呼ぶ名。
青年の称す位。
螢火の双眸が移ろい、影の一旦が零れ落ちた。
微かに、【影竜王】を象ったものが、崩れる >
―中庭―
[翠樹の仔の傍らまで着くと。
少し離れた所で、かけらによる一斉攻撃に合う水竜の姿が見え]
ナターリエ……!
[叫ぶように声を張り上げた。
視界の端には、巨大なる影を"影竜王"と呼ぶ心竜の姿]]
―西殿・回廊食堂前―
[ティルにへらりと、小さく笑んだ。
それは老齢な老人の笑みに近い、どこか枯れたような。]
この世界には沢山生きてる奴が居る。
何を思うかは、そいつらが歩いてきた道毎に違う。
きっと世界…ロウやカオス、揺らすものにとっちゃそんな事、どーでもいいんだろうけどよ。
それでも必至こいて、生きて生かされて。
中には死ぬ奴がいて、残された奴は寂しくて。
[へらり、笑みはゆっくりと。
ほの暗いものへと変わっていく。
内の内に常に在る、時と共に培われた澱み。
闇より暗い、クレメンスの素となるもの。]
―西殿・回廊食堂前―
寂しいのも、後悔も、きついのも、俺は見飽きたのさ。
今はその先にあるものが、見たい。
後悔しないで突っ走るのも、きっと悪い事じゃねぇ。
『輪転』は、何があろうと止まる事はない。
命は、代わりがきくから、命たりえる。
[一転、へらりと笑うは道化の仮面。
そしてクレメンスはその場から掻き消え―――]
[言霊を発していた為に、混沌と流水のカケラへ気付くのが遅れた。剣は手から弾き飛ばされ、下へと転がる]
――っ、邪魔をするな!
[弾かれた際に負った傷は深いが痛みの無い今、関係が無い。青年は傷を負わせたものに目もくれず剣を拾い、それを逆手に構えた]
剣よ、怒るのなら代償を持って行くがいい。
そして代わりに、その力を――…
[滑らせるのは胸の中央やや左、心の臓のある位置。
怒り従わぬ剣であっても、罰するを躊躇う事はなく青年の胸へ
―――そして、その真裏にある背の刻印を、破壊する]
[ 言霊の力は残り、腕は未だ剣へと伸ばされる。
抑え込む力により、二度目の反発は少ない。
されど触れた腕に流れ込む拒絶の意志は、本来の影の持ち主――心竜であり、水竜であり、氷竜であり、樹竜でもあろう――にまで伝播する ]
“偽りでは真には成れぬ。其は竜王に非ず”
[ 其は誰の科白か ]
ノーラ、おうさまに、なりたかったの?
……ノーラは、ノーラになりたいんじゃ、なかったの?
[仔には謎掛けにしか聞えぬ筈だった言葉。
しかして、幼子とは言え言の葉の真髄までは判らぬとも、
その言の響をそのまま受け取る能力には優れていたのか。
傍らに寄る氷竜殿へと一度視線を向け。
すぐさま、その小さき視線は巨大なる影へと注がれる。]
ノーラが、おうさまになったら、やだよ…っ!
―中庭―
[反応が遅れた――水竜が弾いた剣は、回収することも出来ず]
……こうなったら……!
[翠樹の仔の前に飛び出し、アーベルを見据えた――所で。言葉が、響いた]
……、今の、声は……?
……やれ、参った。
そこまでの意思か。
[少しは、周りの混沌のカケラを消滅させたが、絶対的量には到底届かない。
そうこうしている間に、アーベルは、せっかく弾き飛ばした剣を楽にもう一度拾い、その胸へと突き刺す。
自分の命すら辞さないその意思は驚嘆に値するのだが……
段々と、怒りが沸いてきた]
……そこまでして、自分の願いを叶えたいか。
自分自身で、どうしようともせず、もっと、強力な力頼みか!!
自分の命を絶つほどの覚悟があるのに、自分では出来ぬと諦めておるのか!!
―西殿・地下室―
[次に現われたのは地下。手繰るのは、揺らされた若竜。
今がけっこう危うい状況であることは、琥珀から知らされていた。]
オティーリエ!
[名を呼び、存在が知れたらひっ捕まえて、結界内部のどこかへ飛ぼうと。]
[本性に変わった青年から剣は抜け落ち、怒りと反発を弱めエレオノーレ――偽りの【影竜王】の手を受け入れた。
触れられた剣がその手に何を伝えるのかを青年が知る事は無い。
竜都に赤い雨が舞い、昼か夜かわからぬ光の中、青い虹がかかる]
[怒りの言葉を吐き出した後に、頭に飛び込んでくる言葉に、ナターリエが顔をしかめた]
“偽りでは真には成れぬ。其は竜王に非ず”
知っているわ!!
「偽者」が「本物」になんてなれないことなんて!!
だが、それがどうした!!
「偽者」には「本物」には作れない輝きを作ることが出来るのだ!
それは、誰にも叶えさせない!
私が、私自身の道を、私の手で、足で作り出すのだ!
< 落とされた影が取るは、幼児のよく知る者の姿 >
……リーチェ?
< 動きを止めた影の竜の傍らで、黒の瞳が仔竜を映した >
どんなに「不可能」と言われても!
どんなに「徒労」と言われても!
私は絶対に諦めやしない!
全ての常識なんて―――「クソ食らえ」!!
―西殿・地下室―
お前らどっちも同じ事言いすぎなんだよと。
こーの似たもの同士!
[アーベルはオティーリエを、オティーリエはアーベルを。
今回は前者を選んだだけだが。]
後ろに爺さんと雷竜のも居る。
袋小路だと捕まるぜ?
[言いながら、それでも強制的には手を取らない。]
…っ、
ノーラ、
[幼子の名を呼ぶ声。仔は一度だけ――今度こそ驚愕に眼を見開き。
しかし弾かれるようにして、その傍へと駆ける。
たしと小さく芝生を叩く足は、僅かに緑を茂らせて。]
[力を振り絞り届ける心の声は、悲痛なまでに強く響いた]
結界の解放と引き換えに――…
天聖の者に――…聖魔剣への承認を――…
[竜なればこそ心臓を傷つけても生きてはいるが、神斬剣の傷がそう易々と塞がるはずがない。だからこそ――最期の願い]
―中庭―
[目の前で起こっていることを、しばし呆然と見つめていた。
赤い雨。青い虹。そして、碧い虹に似た、竜の姿――。
徐々に、氷破の竜の表情は、悲痛な表情となっていき]
……そこまでの、願い……。
[空を見上げるように、竜の姿を仰ぎ見る。
小さき頃の、仔の面影はそこには見当たらなかった]
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