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[大量の食器の重なったシンクでは水が溢れかけていた。
とめどなく流れていた水を止める。ごぽ、と音をたて、小さな排水口に水は集まり落ちて行った]
…
[それを見届けて、彼女は厨房を後にする]
―厨房→…―
おや。
[少女を連れた"神父"の姿に軽く会釈を。
気丈に振る舞っているようにみえたが、その目はやや赤みを帯びていたかもしれず。]
手向けの花を摘んでおりました。
…何がよいのかわからぬので、とりあえず姉の好きだった花を。
[手駕籠には白百合と鈴蘭。そしてクリスマスローズ。]
…そうですか。
["神父"から状況を説明され、複雑な表情で彼の丸眼鏡の奥をみる。]
…義兄をあんな風にした犯人はこのなかに…。
[握った拳が小さく震えた。]
えぇ、敵を。
[もういちど、彼を見る。
昨日感じた不信も隠さぬままに。]
…あなたは、きっと…自分の家族や恋人でも、そうだと知れば殺すのでしょうね。
[思わずこぼれた愚痴は、彼に届いただろうか?
ごゆっくり、と言い残して母屋に*帰る*]
―自室―
[がちゃり。
重い音と共にケースの錠が外される。
中にぽつりと取り残された銀色の小箱。
少し重量のあるそれを腕に抱いた。中からは何の音もしない]
――…
――これを使う期はもう、二度とないと思っておりました。
汚らわしい獣に住処を追われ、旦那様に拾われたあの日から。
――温室――
[ルーサーの手に引かれるまま訪れるは温室。
静かに扉を開ければ、銀糸漂う先客の姿が目に入る。
少女はその先客に軽く会釈をして、彼の手にある籠を見つめた。]
[籠から顔を出すのは、季節感がまばらな花――。しかしそれはどれも美しく咲き誇り…。零れ落ちる香りは死を嘆く溜め息のように思えた。]
―回想―
[一人でベッドを使うのは申し訳なくて、彼に手を伸ばすけれど。
それは断られてしまって、でも近くのぬくもりは、安心させてくれる。
自然な眠りに引き込まれたのはどれくらいぶりだろう。
暗闇の中で、目を覚まして。わたしは、起き上がって。
椅子で眠る彼に、近付いて。]
わたし……は、駄目、なのに
[目がひりひりとする。痛む。
だけれど先の、アーヴァインの様子が浮かんで、わたしは一度、ぎゅっと閉じた。
探さなくちゃ。
ママの声が蘇る。
早く狼を見付けないと、犠牲者が増えてしまうわ。あなただけは生きていてほしい。お願いよ、マリィ。
いつも穏やかな母の声は、そのときは悲しみに彩られていたから。
それでもわたしはしっている。母が最初に調べたのは……]
[わたしはそっと、自分の左手、小指の爪に、口付ける。
手を伸ばす。
目を覚まさない彼の、その口許に。
やさしい言葉。
ねぇ、でもわたしはしっている。言葉は嘘もつけるのを。
起こさないように指の腹で、そっと触れた。
暖かい。
ねぇ、こうやっても起きないのは……あなたが安心しているせい?
心のうちで問掛けながら、わたしは指を離す。
特別な指よ。こえを思い出す。
この指があした、かわっていたら。
わたしはどうなってしまうだろう。
時間にしては数瞬。
触れたあたたかさを受け取った小指に、もう一度、口付けた。]
[神父と青年の会話を、少女はただ黙って聞いていた。
繋いだ手は…離さず。ただ黙って――]
[途中、銀糸の青年の口から漏れた言葉に、僅かながらに反応する]
――敵…
[その一言で、少女には何が思い浮かんだのだろうか。
ゆっくりと立ち去っていく銀糸を見送りながら。
少女は、そっとルーサーの表情を*盗み見た*]
薬、とってこなきゃ。
睡眠薬と、それから……
[肌身はなさず持てといわれた薬を思い出す。
それは隠しておかなければ。]
[小箱を開ける。
彼女の手に納まるくらいの小さな銃が一挺と、表の箱よりやや鈍い輝きを持つ銀色の弾が数個、ぴったりと納められていた。
弾を一つだけ込めて。
小さな銃を袖の中へ滑り込ませた]
[小さく呟いて、わたしはベッドに戻った。
久しぶりの睡魔を嬉しく思うと同時に
わたしは……*夢に引き込まれた。*]
[やがて小箱は元通りスーツケースの中に納められた。
来た時と同じように、それは部屋の隅に置かれる。
扉を開け、廊下へと足を踏み出した]
―自室→廊下―
[アーヴァインの私室]
[鮮烈な緋に染められた室内は]
[今は黒ずんだ絳へと変わり]
[寝台の上の盛り上がり]
[其処に無造作に掛けられた敷布も]
[亦同じ色に]
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