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[それでもしがみつく少女の存在に気付くと、僅かながら硬直は解かれた。
まだ少し震える手が、赤毛の少女の髪に触れる]
[視線はまだその“モノ”に注がれたままだったけれど]
[ 他人を気遣う事等、青年は表面上でしか知らず、其の様な上辺だけの言葉が届くのかは解らなかった。自らの事すらも儘成らないのだから、放っておけば好いとも思うが、良心故か其れは躊躇われて、]
メイ? ……如何した、確りしろ。
[しゃがみ込み拒絶を続けるメイに声を掛ける。先程の震えも今は止まっていた。]
[流石に臭気に耐え切れず、一度部屋を出ようと振り返り。
そこに硬直し見つめるローズを見つけ]
なっ…見ちゃいけない、これは君が見て良い物じゃないから。
[そういって、その視界からその光景を隠そうと]
しかしまあ、これはちょっとご婦人方や子供達には刺激が強すぎますな。
しばし、直接見えないようにした方が良いと思うのですが、コーネリアスさん。
[アーヴァインのベッドからシーツを引っ張り出し、被せようとする。]
「死ぬのは、いや」
[ 其の声に重なるようにして聴こえたのは同族の聲。現場を見てはいなくとも、表面上は哀しみを装い腹の底で哂う男の姿が鮮やかに目に浮かんだ。]
……大した役者だな。
[ メイを心配する“青年”とは異なり、其れは酷く冷静だった。]
[片方だけ残されたアーヴァインの瞳は、
旧知の仲の牧師を懇願するように見上げ、
口元は、「 こ ろ せ 」と、動いたかも知れず。]
……や、よ
いや、よ
アーヴァイン…………?
うそ
冗談はやめてよ
契約は、どうなるの
やくそく
した…………じゃ、ない?
[においも、その光景も。
どこか靄がかかってしまったようだ。わたしは思う]
……やくそくしたじゃない
[視界が遮られる。その人の姿をみようとしたけれど、目が壊れたように景色を歪ませていて、おちてゆく滴も気にすることもできず、
わたしは、わたしの目の中にやきついた光景を見る]
……ひと……しんだら……やだ。
みたくないもの……いろ……みえる……から。
きえたはずのこえが……きこえる……から。
[今、呼びかけている声は、『それ』ではないと。
意識のどこかは認識しているのに。
その声に答えられずに、ただ、呟いて]
[部屋の中の凄惨な光景に、それでも何とか耐えながら]
なんなんだ なんなんだ なんなんだ、これは!!
これが人狼の仕業だって言うのか?こんな……
[人ならざるもの、その言葉が過ぎる。
だけど、目の前のそれは、確かにそれが此処に居る事を示していて]
なんてこった…まさか、こんな事になるなんて……。
[無意識に探るナイフ。
こんなものは役に立たない気がして]
『わたしを死ぬまで許さないでくれると、言ったじゃない』
[からだがこわばったまま動きもしないで、わたしは思う。誰にも教えない契約の内容を。
どうして行くの?
本当の答えはそれしかない]
生憎、私も彼とは親しいわけではありません。
ただの『共犯者』ですし。
[口元の動きを確認したらしい。
どこからか取り出した拳銃でアーヴァインの心臓に銃口を向け。]
さようなら、アーヴァインさん。どうか安らかに。
[ぱん、と軽い声が響く。
銃をしまい、形式的な祈りを捧げてから十字を切った。]
[ローズが、涙を流すのを恐怖故かと思えば、呟かれた言葉は意外なもの]
…約束?
[それはまるで無意識の問いかけ。
立ち尽くしたままのローズをそっと抱き締めて]
彼と、約束を?
[どこか胸が騒ぐのは何故だろうか?]
[あまりにあっけなく、その銃弾は剥き出しの心臓を貫き。
かくり、と糸が切れたように、それは事切れる。]
…にぃ……さ………。
[呆然と、崩れ落ちていくその身体にすがる。]
[髪に触れる手が、微かだけど震えてるのを感じる。けれど、その手は暖かい。]
――お嬢様−−
[その呼び掛けに、自分がしがみついているのが使用人の少女であると気づいた。
糊のきいたエプロンに顔を埋めたまま、首を降る。]
いや。だって……!
[だって、どうしたいのか自分でも分からなかった。ただ、恐ろしくて動けない。
恐怖の中、確かな少女の温もりに身を寄せた。]
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