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―二階・自室―
[部屋に戻り、灯りを灯して部屋を見渡す。
そこに彼女の姿は無く。]
……何処だ、ローズ……
[暫し考え、自室に戻ったのでは?と。
だけど 胸騒ぎ
部屋の灯りは灯したまま
部屋を出て、ローズの部屋へ]
―二階―
[ローズの部屋まで来て、扉を開けることに躊躇する。
此処には、あれが在った。
もし……]
そんな筈があるか!
[ドアを開け放つ]
ローズ!
[しかし、そこには誰も居なくて。
一瞬の目眩。
見れば服を探した形跡に、確かに此処には居た、と]
でも、今は……?
何処に居る…ローズ……
[焦燥感が自分を支配しかけて、それを振り払うように走る]
…ローズ、何処だ!
[それだけをただ呟いて、館内を探し回る。
厨房も、浴室も、思いつく場所すべてを
だけど
ローズの陰さえ見つからずに]
まさか……外に?
[残る場所はそれしかなく、しかし彼女が外に出るとも思えずに]
まさか……
[だけど、探すべき場所はもう無くて。
重いドアを開けて、外に向かう。
外はやけに明るく、見上げれば
夜空には冴え冴えとした蒼い月。]
[月明かりの下、見渡せば崖のそば
その枯れ木の下に白く浮かぶ何か。
息を呑む、遠目にもそれが何が分かったから]
……うそ、だろう?
[ゆっくりと歩み寄る。
いや、本当は近付きたくなかった、見たくはなかった。
木の根元、眠るように目を閉じる、緑の髪の……]
ろ……ず?
[返事は返らない、返る筈がない。
何故ならば]
[眠るようなその姿。
肌は月明かりに照らされていつもより白く、唇は赤く
だけど、そこから下は……]
[細い杭のような物が、まるで大地に打ち付けるように、正確に心臓に打ち込まれ。
腹部は開かれて、その周りに喰いちぎられたように腸やその他の臓腑の残骸が散らばって。
だけど、その手足はそのまま、まるで眠るように
彼を待っていたかのように伸ばされて。
それらが月明かりに照らされて、まるで作り物のように……]
……あ…ぁ……うそ、だ……
嘘だろう、ローズ……そんな……
[抱き上げる、まだ生きている者にするように。
そのローズの首が、がくり、と落ちて
其れがただの抜け殻だと主張して]
……ぁぁあああ……!!!
[絶叫は、しかし思いが強すぎてか声にはならずに。
ローズの抜け殻をただ強く抱き締めて]
赦さない ゆるさない ユルサナイ……
殺してやる ころしてやる コロシテ……
[狂ったように、壊れたように同じ言葉をくり返す。
怒りと、悲しみと、憎悪に心捕らわれて。
ただひたすらに、ローズの名前を*呼び続けて*]
/中/
今読み返すと、思いっきり俺の文章の癖が出てるな。
[…て][……せずに][…が…の様に…して]
他にもあるけど。
―回想―
[ 広間を出れば一度厨房に赴き喉を潤すも、矢張り渇きが止む事は無い。渇きも飢えも、人間の食事で充たせるものではないと既に解っている。
其の間に幾つかの存在が思い思いに散っていく。無意識のうちに気配を押し殺していたのは獣の性か、其れが去った後に外へと繋がる扉へと静かな足取りで向かい、そっと扉を開ければ僅かに黒んだ緋の残る地面が目に入った。視線を逸けるかの如くに顔を上げた先、闇の中に揺蕩う緑が視界に入り瞳を瞬かせる。女特有の甘い香りが漂い、纏う黒のドレスは闇に溶け込むか。]
……ローズマリーさん。今晩和。
そんな、崖の近くにいたら……危ないですよ?
[ 茫と月を仰いでいた女は其の声に振り向き緑を揺らす。館内の出来事を知らぬ彼女は何時もと同じく――否、其れには僅か寂寥が見られたろうか――微笑を浮かべ柔らかな声で、此処が一番、月や星が綺麗に見えるのだと彼女は云う。
何の様な会話を交わしたか、然う長い間では無かったろう。何時もの如く美辞麗句を並べ立てていたのだとは思うが、其の記憶は定かではない。唯、母の話題が時折女の口から零れれば幾許かぎこちない笑みを浮かべたか。]
[ 僅かな戸惑い、否、苛立ち。渇きと飢え。]
「欲しいならば、その手で摘み取れば良い…。」
[ 目の前に在るのは甘い甘い魅惑の果実。]
「引き離せば、どうなるのでしょうね。」
[ 脳裏に蘇る同族の聲。己の内から囁くコエ。]
[ 一瞬驚きに女の両眼が見開かれるも、背を強く地面に打ちつけ息が止まったか声はあがらず、眉間に皺が寄り其の目は急速に閉じられる。叫ばれては拙いと本能が判断したか彼は其の口をもう片方の手で塞ぎ、女を地面に縫い止めるかの如く確りと体重を掛けて圧しかかれば洩れる呻き声。
然し女は抵抗する事もなく、再び開かれた瞳は感情の読めぬ色を湛えて青年を見詰めるも、地を照らす月光が陰を落とし彼女からは其の表情は見えまいか。唯、口角が上がり三日月を象るのだけは解ったかもしれない。狂気を孕んだ笑み。然れども黒曜石の双眸は酷く無感情に虚無の光を宿す。]
[ 此れ迄封じて来た其の力。解放したのは一年前、己が人狼だと自覚した其の時だけ。睡りに落とすのには彼程苦心したのに覚醒めるのは僅かに一瞬で、彼の腕は獣の其れへと変貌し、ゆらりと振り上げれば鋭き爪は月光に煌めく。]
……お休みなさい?
[ 場に似つかわしくない、まるで母が我が子に告げるかの如く優しき声音。]
[ 冷たき蒼の月の下、其の光に照らされし女は鮮やかに緋色の花を咲かせる。
苦痛に苛まれる最中何か言葉を発そうとしたのか、人間の形をした彼の指の合間に覗く女の口唇が微かに歪められるも、紅を塗るよりも濃厚な緋色に濡れた其れは音を紡ぐには至らず、僅か色めき掠れた吐息ばかりが零れる。
顰められた柳眉も長い睫毛に縁取られ潤む瞳も、死の間際にあって尚も其の様相は艶かしく、若し此の様な場所ではなく流れる緋が無ければ違った行為に見えたかもしれず、嗚呼此れが多くの男達を魅了して来たのだと思う。]
[ 黒の洋装に白い肌、紅い唇。男を惑わす魔性の女。
嗚呼、何を連想させるかと思えば人の血を啜る鬼か。そう云えば人間は吸血鬼を滅ぼす際には、其の心臓に杭を打ち付けるのだったか。神は死しても三日の間に生を取り戻したと云う。ならば神の使徒を自称する人間とて、然うは成らないという確証が何処に在ろうか。抑、人間等玩具に過ぎないのだから何をしても構わぬだろう。矛盾と狂気に満ちた思想。
視線を上げれば其の先には冬の寒さに其の身を枯らした大木。女の上から退くも動く気力も無いか、女は息苦しそうに呼吸をするばかり。木の太い枝を一本折り取った彼は興味無さげに其れを見遣り、喘ぐ女の胸に開いた穴へと正確に突き立れば僅かながら肢体が跳ねるか。生憎と杭は無いが、此の女には此れで充分だろう。
然れど其れはまるで、粗末な墓標の如くに見えたかもしれない。]
[ 其処までの儀式を終えれば久方振りの食事を目の前にして、食材を彩る濃厚な緋色に周囲に漂う甘い芳香に耐え切れなくなったか、彼はいとも容易く人から獣へと堕ちた。黒曜石の双眸よりも一層闇に近しい毛色の黒狼へと。
女の躰の事を知っていた訳では在るまいが、其処には居らぬ子供を、嘗て在った命を奪うかの如く、下腹部に牙を突き立て其れを喰らう、喰らう、喰らい尽くす。
何時の間に女は生を喪ったのだろうか、獣には解らぬ事で如何でも好い事だった。問題が在るとすれば、味が落ちてしまう事くらいだろうか。獣は只管に、其の聖餐の場におけるパンをワインを欲望の儘に貪り続けた。緋く、緋く、緋く染まる。]
[ 月下に死を齎された女、喰らう黒銀の狼。
其れは過去を想起させるも、彼の時とは異なる。
――彼の夜は、人の手で殺し獣の牙で喰らったのだから。]
[ 短い食事を終えた獣は不意に闇夜を仰ぎ其の眸に宿る光を揺らがせる。]
ル、ルル、ル……。
[ 零れ落ちる其れは人の声とも獣の聲とも謂い難い、謡う様な音色。其れは同族を喪った歎きか、食事を喰らった悦びか、或いは――。
緋に濡れた黒銀の毛並みは風に揺られ金色の双眸は月を映して輝き、天に在る光の主は黙して何も語らず、唯、冷たくも優しく彼を見下ろし煌きを注ぎ続ける。*彼の代わりに涙を零すかの如くに。*]
/中の人/
誰が読むのかと云いたいくらいに無駄に長い件。
帰還する描写も考えていたものの、冗長になりそうなので中止(´・ω・`)
纏って来た上着で血を拭い其れは崖下に棄てて裏口から戻る、だけですが。
[わたしの意識はまるで水泡のように浮かんでゆく。
ぽつぽつと水面に溢れて消えてゆく。]
……わたし
は
しんでいるの
[死んでいると認識した時、わたしはなにかが体にまとわりつくのを感じた。
それは冷たい空気のようでもあり、あたたかな水の中のようでもあった]
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