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[金の髪の少女と金の髪の男。
二人を見つめて笑うは獣。
人の血肉により我等の飢えは満たされる?
それは正解でも誤りでもなく。
血肉と共に喰らうは心。
故に屍肉では満たされぬ。]
[ギルバートの口調に、明らかに不快を覚えながら――]
あなたが人であるなら。
人狼審問を経験しているなら…
何故――
神父様の死を軽んじるような態度を…?
[軽やかな楽の音の様な][[笑いを止めた]
[少女に][面白くも無さそうな顔で]
ある村に人狼が潜んでいると言う噂が立って、異端審問官がやってきた。
其の日から全てが変わって、地獄が始まった。
人狼が襲って喰ったのと同じ位、無実の人が幾人も同じ人間の手で殺されたよ。
安全の為に、人狼を見つける為にと。
何の罪も無い子供でさえも、疑いを掛けられて処刑されて。
だから…?
だから…神父様の死も…嘲られると?
――何も知らないのに…
異端審問官の心情なんて何も知らないくせにっ……!
ギルバートさんのところに来た異端審問官がどういう人かは私は知らないわ…。
でもっ…――
神父様は苦しんでいた…。
父も…苦しんでいたわ…。
罪の無い人を殺す苦しみなんて解らないくせに……。
人は皆…勝手なことばかり言って……
[搾り出すような言葉と共に――]
[少女の瞳から零れ落ちるのは。一筋の涙――]
殺した人狼の何倍もの数の人間を殺して生きてきたから…何?
あなたはその騒ぎで…何かしたの…?
少しでも審問官の苦痛を軽減するような事をしてきたの?
一人でも犠牲者を出さないように…皆で団結するような動きを…してきたの?
[悲しみに濡れた瞳は――何処か虚ろ気にギルバートを見つめて――]
[投げ掛ける言葉は…淡々と――]
苦しんでいたから──か……
苦しんでいたら、許されるのか。
同じ人間が人間を殺す事を。
其れで罪が消えるのか。
消えはしない。決して。
[決然と]
[涙を零す少女にも][同情を示す事無く]
[ぼんやりと、何も映さぬ瞳を遺体(からだ)へと向けたまま。
耳に響くは、白銀の獣の声。
詠うように朗々と響くその音は、遠いのか近いのか。]
……
[緩慢に面を上げて、一つ瞬けば。ゆらり、意識も揺れて。混濁]
何をしたか?
[クッと喉を鳴らし]
[自嘲][嫌悪][悔恨]
[琥珀の眸に瞋恚の炎を宿して]
──俺は愛するひとを信じられずに、裏切って生き延びた。
別に私はあなたに神父様の事を赦して欲しいなんて思ってもいない。
私は神父様を、父を――赦すと思っているだけ――
それにね、ギルバートさん。私は神を捨てた人間なの。
罪がどうとかという話は…、私には関係ないことなの。
そんな話は…熱心な信者に任せておけばいいだけの事。
[涙を拭い、少女はふっと溜め息を吐いて――]
…人狼とは…解り合えない。
だから――私は『彼ら』を殺したいと思うだけ――
ただ――
あなたが同じ『人間』なら――
助けを求めたかった…。
私一人では…あまりにも無力だから――
[と、そこまで言うと自嘲的に微笑を漏らして――]
でも、あなたとは分かり合えなかったみたい…
解かり合えないから、殺す。
信じられないから、殺す。
憎んでいるから、殺す。
愛しているから、殺す。
愛しても憎んでいなくても、殺す。
[手も、声も届かない。だから、ただじっと見つめる。]
殺しあうのは…人だけ……
[生温い水の中にいるかのように、少女と青年の声は何処か遠い。
なのに、獣の声ははっきりと耳に届いて。ようやく彼は、白銀の獣も”死した者”であると気付く。]
あなたは……誰…?
……コーネリアスさんなの……?
[その艶やかな毛皮に、彼を思い出して。口にすれば疑問は確信へと代わりつつ。]
[少女に背を向け、再び歩き出す]
[刹那、]
それに───
あんたが人狼でないと、如何して判る?
異端審問官を油断させられるのは、余程信じていた人間だけだ。
[置き土産の様に][囁いて。]
[ギルバートの口から零れた、独り言のような言葉に――]
[さらり――]
[少女は金糸を揺らして――]
…人と人狼の境界なんて、有って無いようなものかもしれないわね…。
私は大切な人を人狼によって奪われたから――
『彼ら』を殺したいだけ――
父を苦しめた『人間』は。
――勝手に滅んでくれたから…だから私は…手を汚さずに済んだ…。
お綺麗な存在では無いわ?
[ギルバートの言葉に――]
[ふわり――]
[微笑めば、花の香りが零れ落ちて――]
[ふるり、身を振って。白銀の獣は、彼の知る人の姿へと。姿を変じても変わらぬ白銀の髪が、さらりと揺れる。
それは彼に、かつての幽霊騒ぎを思い出させたけれど、それ以上に怖いものを知ってしまったから。哀しそうに視線を伏せるだけで、逃げようとはせずに。]
コーネリアスさんも…死んじゃったんだね……。
ねぇ、あなたは…最初からボクの知ってたコーネリアスさんなの?
それとも…姿を真似ただけなの?
「おおかみは、おばあさんに化けて――」
[姉さんの声を思い出しながら、そう訊ねた。]
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