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[小鳥は森の木の枝に止まって、小首をかしげて、ふたりを見ています。
嘆きをつぶやくお爺さんと、ほんとは笑ってる牧師さん。]
……落ち込んでいる場合では、ありませんわね。
決めたからには、動かないと。
[小さく呟いて、周囲を見回します。
アナと話している間に、牧師様は何処かへ行かれたのでしょうか、姿も見えません。]
……探し歩くよりも、教会で待っていた方がよかったかしら。
[こぼれたのは、小さなため息でした。]
ふうむ、それもそうじゃのう。
……旅人は、何処に骨を埋めるを望んだことやら。
[そういって、地面を掘る牧師を手伝おうとしたのですが]
おや、嬢ちゃん?
どうしたんじゃ。あんまり近くに来ちゃいかんぞ。
[からだを包む前のルイに近寄ろうとするアナを見て、おじいさんは慌てた様子]
[ご隠居の言葉に、牧師は少女の来訪に気付きます。
少女がランタンを手に、ルイのからだに近づいてきます。
あれが、こころの欠片なのでしょうか。
牧師は手を止めて、少女のする行為を見つめています]
慌てると、落ち着きがなくなるのが悪いところ、とは、ずっと言われていたけれど。
[呟きながら、歩き出します。
でも、今日は仕方ない、と思いました。
願っていたのと、真逆のいろを見てしまったのですから、驚くな、というのが無理なお話なのです、きっと。]
欠片はここにあるから。
お人形みたいに、くっつけたら、なおらない?
〔まるで壊れたおもちゃを直すのを頼むみたいにアナは言う。
けれど、ぶら提げていたランタンを差しだすと、白銀の炎はゆらめいて、あっという間に消えてしまった。〕
[ドミニクが足を速めたので、慌ててついていきながら]
あたしが言ってどれだけ信じてもらえるかは分らないけど、もしあたしが人に化ける獣なら、ヴァイスは紛う事なき獣だわ。おそらくだけど、この子のほうがそういう感覚は鋭いのだと思う。
あたしが女将さんを、というのはタイミングとしてはすごく都合が良いとは思うけど、あたしも女将さんの行方が知れないことについては正直手を尽くして探したし、それ以上は神様しか知らないことだと思うわ。
[精一杯の答えをドミニクがどう受け取ったかは背中しか見ていないゼルマにはわかりませんでした。]
……あれ、れ。
いなくなっちゃった。
〔アナのまるい眼は、もっともっと、丸くなる。
めぇ、めぇ、めぇ。
羊が何度も、鳴いている。
きょろきょろと辺りを見回したアナは、川のそばになにかを見つけた様子で、目を留めた。〕
欠片?
[おじいさんはランタンの炎を見ましたが、それはあっと言う間に消えてしまいました]
……生き物はな、切られた所をくっつけても元通りにはならんのじゃよ、嬢ちゃん。
生き物は、壊れたら治らんから生き物というんじゃ。お人形とは違うんじゃよ。
[おじいさんは、膝をかがめるようにして、アナに言い聞かせます]
[教会に着いた二人は牧師が戻らないまま弔いの支度をはじめます。
ドミニクの話ではルイの亡骸はまだ川べりに置いてあるというので牧師はそちらに行っているのかもしれません。
ドミニクは連日となった棺の準備をしに奥に入ります。]
せめてドロテアが居ればもう少し勝手がわかるのだけど。
[あまり立派な教会ではありませんがそれでも中はそれなりに広くて、いざものを探すとなると大変なのでした。]
[暗い暗い、森の中。
牧師は、少女の様子を見つめています。
夜は、もうじき。獣の時間が近づいています]
……どうか、されましたか?
[牧師は何かを見つけた様子の少女に、一歩。
仔羊の鳴く声が、牧師には大合唱にも聞こえました]
おや、本当に一つに戻ったんだな。
[消えた小鳥と、現れたルイの姿に、ふわふわと浮かんだまま、アルベリヒは目を丸くしました]
だめなの?
お兄ちゃんやアルベリヒさんみたいに、
食べられてしまったのではないのに。
なくしたからだは、ここに、きちんとあるのに。
〔ベリエスに聞き返すけれど、アナの視線はよそへと行っている。
川のそば、草の陰。
旅人の落としてしまった短剣のきらめきに。〕
……とにかく、一度戻りましょうか。
亡くなった方が出たなら、忙しくなりますし。
……勤めは、果たさないと、いけません。
[自分自身に言い聞かせるように呟いて。
教会へ向けて、歩くのです。]
本当に、面白いことを言う子ですね。
[アナの持つ、揺らめいて消えたランタンの炎。
牧師はふと、ホラントさんのことを思い出しました]
繋がらないんじゃよ。
病気で死んでしまった人とおんなじじゃ。
からだが残っていても、切り離された魂は二度と元には戻らん。
[それがアナのいう"欠片"のことなのか、おじいさんにはわかりませんでしたけれど。
ただ、どこかに行ったアナの視線を追い掛けて、そこにきらめきを見付けたのでした]
牧師 メルセデスは、隠居 ベリエス に意志を預けました。
そうだな、かわいらしかったけど、あんまり便利には見えないな。
[ルイの言葉に相づちをうちながら、アルベリヒは心配そうにアナに視線を向けました。きらり光る銀の色]
[ゼルマは棺の準備を終えたドミニクとともにアルベリヒを棺に納めます。
昨日と同じく、すきまの多く残る棺でした。]
ドミニク、あたしの知っている話もしておくわ。
人に化ける獣の話はホラントが噂話を出すよりもずっと昔、まだ先代の牧師様の時代にも流れたことがあったの。
神罰で人が獣の姿に変えられてしまうことがあった。その者たちの一部が悪魔にそそのかされて道を踏み外した。昼間は人間の姿に戻ることができるけど夜になると元の獣の姿にやはり戻ってしまったのだと。
もし、あたしに何かあればこの話は役にたつかもしれないわ。
[ドミニクはそう付け加えるのでした。]
そっか。
〔ベリエスの言うことを理解したのか、アナの眉が下がって悲しそうになる。〕
それじゃ、それじゃ――どうしたら、いいのかな。
[そんなことを話すゼルマをドミニクはどうおもったことでしょう。
ヴァイスはどんなことを思ったでしょう。
それは神のみぞ知ることなのかも知れません。]
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